五十崎の町づくり
高齢化社会の購買システムに関する提案
高齢者の日常生活における「買い物」という行動は、単に生活必需品の購入だけが目的ではなく、地域社会との関わりや多様で心豊かな老後生活の確保には欠かせないものであり、幅広い意味を持っています。 一方、小売業などの商業活動においても、高齢化社会の到来に備えて福祉的役割の充実が課題となっており、近年、高齢者向けの商品の開発や高齢者に配慮した店舗の建設などが進められていますが、今後さらに宅配システムや無店舗販売などの購買システムの展開も期待されています。 高齢化社会に適応した購買システムとはどのようなものなのか、「買い物」という行動が高齢者の生活のなかでどのような意味を持ち、その購買システムと従来の高齢者に対する様々な社会システムとどのような関連のもとで意味を持ちうるのかを考察することにより、商業活動のなかでの福祉的役割の可能性について考えてみます。
(1) 高齢化とそれをとりまく社会環境の現状と将来予測
わが国においては、団塊の世代の存在による人口構造の特殊性、近年の出生率の減少による少子化、平均寿命の伸長による長寿化、などの要因により今後他国に類を見ない速度で高齢化が進展し、団塊の世代が65歳以上の高齢者となる2020年には高齢化率は25.5%に達し、国民3.9人に一人が65歳以上の高齢者という本格的な高齢化社会が到来すると予測されています。 また、高齢世帯の家族形態も核家族化が進行し、高齢単独世帯の大幅な増加がみられる一方で地域内でのつながりも希薄化しており、従来の家庭内での介護や地域内での助け合いなどの援助機能に替わる高齢者に対する援助システムの構築が急務です。 これに対して、「高齢者保健福祉10ヵ年戦略」いわゆる「ゴールドプラン」が掲げられ高齢者対策の充実が進められていますが、今後予想される高齢者のニーズの多様化に対しては、公的サービスのみでは応えることが困難であることが従来から各方面から指摘され、費用負担の問題も含めて民間による高齢者へのサービスが普及・定着しつつあります。 しかしながらそれらの公的・民間サービスがカバーしきれないすき間にはあらゆる分野にわたる顕在化しないニーズが今後さらに生起してくことが予想され、その中でも高齢者の「買い物」という問題は、その中にあって生活という生存に関わる問題から、買い物という行動を通じての社会への関わり多様で心豊かな老後生活の条件など、高齢者の生活の中で意外に広い意味を持っていると考えられます。
(2) 高齢者の特性と購買活動上の課題
高齢者の購買活動上の課題を検討するにあたって、所得と支出の側 面 から高齢者の特性を抽出するために、まず世帯主の年齢階級別に世帯人員一人当たりの平均所得金額をみると、高齢者の世帯は世帯全体の所得金額では他の階級を下回るものの、平均世帯人員で除した一人当たりの所得金額では得ている所得は決して少なくありません。 また、高齢者世帯内部での所得を四分位階級別にみると、他の年齢 階級と比較して中央の第U・第V四分位の所得階級の占める割合が少なく、他の年齢階級より所得の二極分化の傾向が強い。一方、一人当たりの消費支出では全世帯の平均を上回り、40歳未満の世帯のどの年齢階級よりも上回っています。 一方で支出の内訳をみると、食品全体の1カ月あたりの支出金額は高齢者世帯においても他の年齢階級と比較してほぼ同じかむしろ高くなっており、細目別にみると高齢者世帯になるにつれて外食への支出が減少しているのが特徴的です。 また品目別には魚介類と野菜、海草類・果物類への支出金額が上昇し、高齢者の食事における健康志向がうかがえます。教育にたいする支出は年代によって大きく変動しますが、高齢者の世帯にあっては支出全体に占める割合は非常に低いことです。逆に、教養娯楽に対する支出は高齢者世帯になるほど増加しますが、同様に通信費、交通費への支出は全世帯平均を上回っており、移動やコミュニケーションの度合いは高齢者となっても減少しないことがわかります。その他の支出においては、他の年齢層に比べ交際費の支出が多く高齢者の支出の特徴をなしています。 以上のことより、高齢世帯の支出の特徴として、 @中年世代の家計を圧迫する教育費、住宅ローンの二大出費が軽くなっ ているので高齢者が自由に使えるお金は見た目より多いこと A余暇や交際などへの支出の割合が多く、生きがい志向や暮らしを楽し む傾向がうかがえること …… があげられます。 次に、高齢者の身体機能上の側面から高齢者の購買活動上の特性を考察してみますと、健常な高齢者でも若い人と比べると身体の機能はかなり低下し、20歳の若者に比較して視力や脚力や敏捷性など運動能力において、2分の1から3分の1まで低下しています。高齢者の身体機能低下が外ひいては買い物行動に大きな制約を与えるだろうことは容易に想像できます。 このような身体機能上の特性にたって背景としての高齢者とりまく環境における課題を考察してみますと、高齢者の日常生活は一日中住宅の中に閉じこもっているのではなく通常は健康な成人と同じように外出しさまざまな建築物を利用し、道路・交通機関をも利用しており、高齢者の外出に対しては身体、とりわけ脚力の機能低下に加えて視力、聴力の能力低下に対する配慮が必要であるといえます。 このような買い物環境の整備さえ実現できれば、多少のからだの不自由があったとしても自力で歩行ができ、経済的余裕があり、時間的に自由が多い高齢者にとって、買い物という行動はひとつの余暇活動として十分意味のあるものになり得ると考えられます。 以上のまとめとして、高齢者の実状として一律に豊かで健康であるとは限りませんが、反面一律に貧しく病弱あるいは寝たきりということでもなく、他のどの世代にも増して個人差、多様性の集団であるといえます。
(3) 高齢者に対する小売業の課題と現状
高齢化社会における望ましい購買システムを考察するにあたって、現在ある小売業の業態ごとの高齢者の利用状況を見ると、 @購入に先立ってコンサルティング機能が必要とされるものに対しては、 価格で選ぶより売り手の顔が見える販売形態が好まれる A通信販売、コンビニエンスストアなどの比較的新しい業態の利用は年齢 層が高くなるにつれて低下する傾向にあり、利便性などよりも従来より慣 れ親しんだ購買方法をより好む Bディスカウントストアの利用が年齢が上がるにつれ低下しており、高年齢 層になるほど価格以外の基準で店舗を選択する …… などの傾向がうかがえます。 上記の傾向を前提として既存の小売の形態から購買システムの課題を検討してみますと、購買形態としてもっとも一般的な形態である店舗業態は、購買という行為の前提として「そのものを販売している店舗にまず足を運ぶ」という条件のもとで成り立っており、高齢者の購買における課題を高齢者の移動が制約された状態と規定するなら、高齢者の来店条件をいかに整備するかがもっとも大きな条件であるといえます。 これに対して通信販売や生活協同組合の共同購入などの無店舗販売 は、高齢者にたいして限りなく自らを接近させることが可能であり、買い物環境の整備という制約からは自由である反面、「買い物」を余暇活動という側面または多様で心豊かなライフスタイルの実現の手段という視点で見ると、店舗業態に比べ現状では取り扱い可能品目などの制約が存在することもまた事実である。すなわち、高齢化社会の購買システムは、この2つの購買形態が補完補完しあってはじめて可能になると考えられます。
(4) 高齢者に対する小売業以外の現状と課題
高齢化社会にに対応する購買システムを小売業にとどまらず幅広く考 察するため小売業以外の諸活動を概観すると、その主体として、 @いわゆるシルバーサービスなどの商業ベースにのった福祉産業 A高齢化社会における企業の社会貢献活動 B住民参加型在宅福祉サービスの主体としての民間非営利団体 C行政等 …… が考えられます。 高齢者の「買い物」が単にそれ自体で完結する行動ではないことは明らかであり、その背後に様々な高齢者特有の問題が存在することから、これらの主体による諸活動との相互協力の関係を構築していくことが、ゆたかな高齢化社会を築く上で重要です。
(5) まとめと方向性への提言
高齢者層は消費行動だけでなくその意識、気風、生活行動いずれをとっても他のいずれの年代に比べても実は多様であると考えます。ひとくちに高齢者といっても、まず育ってきた環境、社会的地位、収入、地域、などの横のファクターによる差があるだけにとどまらず、年齢による世代の差といった縦のファクターの差もまた存在し、その中での差異を一つ一つ考慮しないと高齢者に対する施策はその効力を見失いかねません。 すなわち、今後の高齢者のとらえ方として、ひとつのマスとしてとらえることはもはや不可能になりつつあります。そのような中にあって、望ましい購買システムを3つの方向性を提案致します。
@ 身体機能の低下に対応し自立生活への第一歩としての購買システム
自立生活への意思の無いところには、買物行動という行為は成立しな いのであって、そのために、店舗における買い物環境の整備や在宅サ ービスの充実など、高齢者が買い物を自由にできる環境を整備し、買物 のできる高齢者の範疇を拡大することは、寝たきりなどの要介護老人を 少しでも自立生活のなかに留まらせるために重要と考えます。
A 高齢者の不安をやわらげるための社会との接点としての購買システム
買い物という行為は、商品を通じて、人を通じて、社会システムの中に 存在することの一つの証明であり、もしものときの対応として社会生活を 維持することは不安の解消にも成りうる。福祉施設でもない、福祉相談員 もない地域社会において身近な存在としての購買システムの構築が重 要であると考えます。
B 生きがいづくり、多様でこころ豊かな老後生活への手段としての購買 システム
画一的な買物行動は現状でも必要ないし、高齢化社会においても同 様です。多様な暮らしを自ら選ぶというスタンスの確立が、多様で心豊か な高齢化社会の構築にむけて重要であると考えます。
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