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手取川(石川)

 「手取川」の吟醸をたずさえて、今治・郷にある居酒屋へ行った。10席程のカウンターはほぼ埋まっていて、私達は40歳代の男性と20歳代後半の女性の不似合いなカップルの隣の席に座った。
 お酒をご主人に差し出すと、カウンターのお客に持ち込みの酒が振る舞われた。私たちは「なごやふぐの刺身」を頼んだ。
 「手取川」を口に含むと、りんごのような芳香が拡がる。
ところが、「なごやふぐの刺身」との相性は群を抜いて良いのだ。透明な呑み口で咽越しがとても柔らかい。それが、白身魚の淡白な味によく似合う。

 酒の余韻を楽しんでいると、隣から妙な言葉が聞こえてくる。「ONANIE」とそれは聞こえる。若い女性と30代半ばの男性の会話。周りを確かめると、何気ない風を装って入るが、皆が聞き耳をたてている。耳なれない言葉に、興味津々のようだ。

 女性は帰国子女であり、趣味で陶芸をしている。男性とはサークル仲間であるらしい。女性がうには「一昨日、ONANIEをした」と。男性は、怒るともなしに聞いている。目は大きく開いているのだが、相手の目を見ず、身体全体を舐めるように眺める。

「そんな言葉は女性が使うものではない」
 店の奥さんが、言葉に反応した。
「うちの店は、みんなが楽しく飲むところ。変な言葉で、雰囲気を壊さんといて」
 店のお客は、そのなりゆきを見守っているが、緊張した空気ではない。ただ、興味本位で眺めているだけだ。
 2人は、悪びれた様子もなく、謝りもしない。しばらくの沈黙のあと、奥さんの話を聞き流すように、陶芸の話をはじめた。
 奥さんはぷいと店から出ていった。残りのビールを飲み終え、2人は出て行った。

 私たちは、しばし沈黙し、誰かが口を開いた。
「下心が見えると、男は弱いなぁ」

 「手取川」というと、このときの出来事を思いだす。

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