はじめに・・・・

 子供の頃から、食べ物のことを調べたり、美味しいものを食べるのは好きだった。家は余り裕福ではなかったが、父が味にうるさかったのである。エンゲル係数が高い家庭だった。
 父は師走になると利尻の昆布、天日干しのいりこを天保山の乾物屋で一年分まとめて買っていた。料理の基本は「だし」であると、自分の目で材料を選んでいたのである。店の人は父親を料理屋だと思っていた。調味料にもうるさかった。醤油は小豆島の丸金。味噌は藤本の田舎味噌。砂糖は三温糖と黒砂糖。
 食べ物への興味を育て、舌を養うには良い環境だった。これが食べ物の本を書くことに役に立つ、と思う。

 今治の焼鳥が一般の焼鳥と違うことに気がついたのは、大学二回生の秋だった。二十年ほど昔の話。バイトの帰り、京都木屋町にある焼鳥店に一人で飛び込んだ。白いのれんに墨文字で大きく「鳥せい」、小さく「やきとり」と書かれてある。中に入ると和調のインテリア、長いカウンターの小料理屋という感じの店だ。熱燗、「皮」「鳥ネギ」「きも」を頼む。突き出しは小鉢に入った「大根おろし」だった。
 出てきた「皮」は串に刺されていた。外側はこんがりと焼かれ、食感は柔らかい。タレはあっさりめ、醤油の強いタレだった。今まで食べたことのない「皮」だった。
 外に出て初めて価値が解ることもある。今まで常識だと思ってきたことが他の地域では非常識であることに気づいた瞬間であった。慣れ親しんでいたものが場所が変わると全然違うものになる。ふるさと今治で今まで食べていた焼鳥の「皮」は何だったのだろう。軽いカルチャーショックが襲った。今治焼鳥は独自の存在だったのだ。
 このことが頭のどこかにずっと住みついていた。

 去年の秋のことである。
 無尽のメンバーとの馬鹿話。焼鳥のことで盛り上がった。
 「今治焼鳥の鉄板は最初、造船所で拾ってきた鉄板で焼いたのではないか」「せんざんきは近見のあたりに千さんという人がいる。そのご先祖様が作ったのではないか」「いや、せんざんきは近見山の雉で作ったと聞いた」「北海道で鳥の唐揚げをざんきというのは新居浜の人がたくさん移住しているからではないか」と、焼鳥に関するフォークロアを語り合ったのである。
 今治の焼鳥のことを本にしよう、と考えたのはこのときである。
 焼鳥屋や飲み屋に行けば必ず焼鳥についての噂を集めた。「あの店は面白いものを出す」「あの店の大将は競輪が大好きらしい」「あの店の鶏は地鶏を使っている」「あの店のタレの味の秘密は」など・・・・・。
 焼鳥屋を回って、大将の話を聞く。同じメニューで店ごとの味を比べてみる。噂の信憑性を確かめる。図書館に行って地方出版物を当たる。
 病が高じてアンケートをしてみたくなった。千枚ほどを印刷。親族、知り合い、飲み屋関係を中心にアンケートをお願いし、集まったのが三百二の焼鳥データである。
 しかし、データだけでは本当の焼鳥屋の姿が見えてこない。裏を取らねばならない情報もある。店に出向き、情報をチェックする。自分自身で焼鳥屋の雰囲気とメニュー、味を確かめる。心と身体に情報を刻みこむのが一番確実な情報収集手法である。
 せっかく地元に住んでいるのだから、ディープで他の人に真似の出来ない本を作りたい。「しつこく調べて、面白く」をこの本の基本姿勢とした。テレビの「探偵ナイトスクープ」のような本にしたいと思ったのである。地元の人が知っているディープな情報を面白く取り上げるという点では香川県の株式会社ホットカプセルから出ている「恐るべきさぬきうどん」が参考になった。どちらも足で情報を稼ぐ方法であることは間違いない。
 さて、集めた焼鳥のデータをどの様に料理するか、が腕の見せ所となる。味わいをどの様にするか、スパイスをどの様に効かすか、盛りつけをどの様にするか。材料である話はたっぷりあるのだ。新鮮なうちに調理しておきたい。
 しまなみ海道が開通する前に、「鉄板焼鳥」という今治固有の食文化に関する本を出版しておきたい。焼鳥に対する熱い気持ちが冷めないうちに本を作りたい。心の鉄板に火は付けられたのである。
 果たして、この本を美味しく仕上げられるだろうか。
 「やきとり天国」の旅ははじまった。足を使い、舌で確かめる旅。本完成への道のりは険しく厳しいものであろうか。ただ、ひとつ言えるのは、この旅は自分自身にとって貴重で豊かな体験になるだろうということである。

                 「やきとり天国」執筆を前にして
                           平成十年 初秋
                               土井中 照

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「やきとり天国」マスコミ取材

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