鉄板焼鳥の謎

 今治は水軍の歴史を持ち出すまでもなく、古くから海運が盛んだった。波止浜地区では船の修理や新設のため、大小さまざまな造船所がある。
 焼鳥の鉄板は船に使った鉄板の余りで作られたのではないかと思っていた。これなら材料は簡単に手に入るし、鉄板は安く作れるに違いない。
 鉄工所の人に聞いてみるとこれが大間違い。火を使うところにそのまま、船の鉄板を使うと、火力で鉄が歪んでしまう。常時、熱を使う焼鳥屋に船の鉄板は不向きである。鉄をプレスして硬くして曲がらないようにしないと焼鳥屋では使えない。
 ちなみに焼鳥用の鉄板を注文する場合は鉄工所より金属加工業者や板金屋さんの方が向いている。
 また、鉄板に厚みがないと駄目。鉄板の表面温度を一定に保つために少なくても一センチ以上の鉄板が必要である。
 家庭用のホームプレートで焼くと、材料をのせた時に鉄板の温度が下がる。厚い鉄板を使うと材料をのせても温度が下がらず、熱を熱いまま保つことが出来る。そのため、肉の旨味を鉄板の熱で出すことが出来るのだ。但し、鉄板を熱くするため、三十分以上も前から火を付けておかなければならない。
 この鉄板の違いがプロと家庭の味の決定的な違いなのだという。
 では、今治の焼き鳥が鉄板焼なのはどうしてだろうか。

 鉄板焼鳥の元祖が「五味鳥」である。それならば、「五味鳥」の大将に伺うのが一番の策だ。早速、テレビや旅行案内書によく登場する「五味鳥」へ向かう。鉄板の前で大将が「皮」を焼いている。
 
 うちが焼鳥を始めたんが、今治の鉄板焼鳥の一番最初じゃわいね。うちが元祖鉄板焼鳥ということになる。
 鉄板焼に何でしたかゆうたらね、今治の人に理由があるんよ。今治の人の気質ゆうんかいな。せっかちじゃろ。注文してもたもたしとったら、帰ってしまう。それで早よ出さなあかん、ゆうて考えたんが鉄板焼やったわけよ。
 こうしてプレス言うけど、重しで上から押さえるじゃろ。鉄板の熱で蒸されるけん、中まで火がよう通るわけよ。鳥の脂で肉も揚げたようにカリッとなる。美味しい上に早よ出来るじゃろ。店もお客さんも大喜びよ。
 鉄板にも秘密がある。ちょっと斜めに作っとる。こうしたら肉の脂が切れてベタベタせんけんね。あっさりカラッと出来るわけじゃがね。
 うちの鉄板の厚さ。だいたい二○ミリというところかいね。ようけ焼鳥の注文があっても、全部美味しく出さなあかん。熱が下がらんように厚いんよ。

 他の地域で鉄板焼鳥をしているところを探してみると、まずは広島。胡町にある「串道楽 楽車(だんじり)」。炭焼と鉄板焼の両方を使い分け、鉄板で焼いたものは串くわ焼と銘打っている。トンぺい焼きが名物らしい。焼き方やメニューにアイデアがあふれている。肉押さえ(プレス)を使うところも今治の焼鳥によく似ている。
 大阪にも鉄板焼の店がある。串焼の店。藤井寺市の「志万浅」。鳥よりも野菜と魚にウェイトを置いている。エノキをベーコンで巻いたもの、れんこんのミンチ詰め、ピーマンのミンチ詰めなど今治の焼き鳥メニュー、特に野菜メニューと共通のものが多い。 
 鉄板を最大限に利用する今治の焼鳥は広島よりも大阪の串焼店に似たスタイルであるように思う。
 大阪との交流が盛んだった昭和三○年代、こうした串焼スタイルの店を参考に今治に焼鳥屋を誕生させたのではないかと思う。

 では、鉄板焼鳥のメリットは何だろうか。
 店側のメリットとしては調理人が少なくて済む。自分でも作れるため、人件費がカットできる。厨房スペースが少なくて済む。皿の上げ下げが少なくて済む。カウンターを前に無駄な動きをしなくて済む。オペレーションがスムーズに出来る、という合理的なもの。
 人件費を押さえることが出来て、設備投資も少なくて済む鉄板焼鳥屋。しかも、のんびりくつろぐ店ではないため、回転率は高く効率的である。店の改装も頻繁に行う必要もない。
 合理性を尊ぶ今治人にとって鉄板焼鳥屋は向いたシステムであることは間違いない。
 客のメリットとしては「早い・安い・旨い」という一昔前の洋酒の宣伝コピーのよう。軽く食べて呑んで一人前二千円前後。これくらいの金額なら懐を気にしないで済む。
 こうした価格設定が可能なのも店の人件費がかからず、設備投資が少なくて済むことが焼鳥の値段に反映されるからだろう。

 鉄板は火を落としても冷めにくいように厚い鉄板で作られている。両サイドには空気穴、下の方に鶏から出る脂落としの穴が開けてある。鉄板の廻りにフチがしつらえてある。熱源はガス。火力調節はほとんどしない。鉄板の中央部が熱が一番高く、次に鉄板奥、両端の順に温度が変わる。鉄板の温度は約三百度ほどに保たれている。鉄板の焼く位置で素材に応じた火力調節が行えるのである。

 鉄板焼と炭焼の味の違いは何だろうか。
 炭焼は肉の余分な脂分を落とし、あっさりした味わいになる。
 鉄板焼は焼きに加え、蒸す、揚げるの要素が加わる。早く火が通り、肉の旨味が増すのである。
 炭焼と鉄板焼の違いが大きく出るのは「皮」である。今治鉄板焼鳥の名物。
 炭焼の「皮」は串に刺され、柔らかい食感を楽しむ。鉄板焼の「皮」は皿で出され、表面はカリッと硬く、中は柔らかくジューシー。気になる脂分をほとんど感じさせない。材料と名前は同じでも、鉄板焼と炭焼ではまったく別ものと考えたほうが良さそうだ。
 また「野菜焼」も炭焼では脂分が飛んでしまい、物足りない印象を残すが、鉄板焼では脂分が程良く残り、肉の旨味を感じるため美味となる。
 「つくね」や「鳥ねぎ」などは炭焼の方が味の深みがある。鉄板焼では平板な味となる。火が通りすぎて肉が硬くなったり、ジューシーな味わいが楽しめにくいのである。
 鉄板焼は脂分が少し残ることになる。だが、この脂分が肉の旨味を感じさせる最大の要因。これが焼鳥でありながら串を刺さない、今治で人気の「皮」「もつ」を誕生させた。

 もし、他の地方から人が訪れ、軽く一杯というときは今治の鉄板焼鳥屋へ行くことをおすすめする。その人がどの様な反応を示すか。どの味が好みなのか。今治独自の鉄板焼鳥の味をどう感じるか。他の地方では滅多に見かけない焼鳥。今治の食文化を肌で体験してもらう絶好の機会である。
 こんなの焼鳥じゃない、という人もいるかもしれない。でも、一度鉄板焼鳥を「皮」だけでもいいから食べていただきたい。好きか、嫌いかは食べてみなければわからない。「論より証拠」である。
 鉄板焼鳥は今治じゃなければ生まれなかった今治独自の食文化。みやげ話に、鉄板焼鳥へぜひ、行っていただきたい。「郷にいれば郷に従え」と、言うではないか。

はじめに・・・・
焼鳥日本一宣言 今治ってどんな街
焼鳥屋比較/四国
焼鳥屋比較/全国
焼鳥の歴史 焼鳥の歴史/全国
焼鳥の歴史/今治
今治独自の焼鳥 せんざんきって何だ?
焼鳥アンケート 今治の焼鳥スタイル
よく行く焼鳥店
焼鳥人気メニュー
いまばりの焼鳥屋 今治焼鳥屋リスト
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「やきとり天国」マスコミ取材

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