焼鳥日本一の街、今治

 瀬戸内しまなみ海道の四国側、高縄半島の先端にある人口約十二万人の街が愛媛県今治市。タオル生産が全国の六十%を占め、造船や縫製などが盛んな工業都市です。世界一の三連吊り橋の来島海峡大橋、藤堂高虎が築いた今治城、四国遍路にちなむ古寺、白砂青松の海岸など魅力的な観光資源も数多くあります。

 また、今治市は「焼鳥日本一の街」の顔を持っています。串を使わない独特の鉄板焼鳥という方法で焼かれる鶏皮を中心とした焼鳥です。
 今治に現在のような鉄板焼鳥の店が誕生したのは昭和三六年。柳町、今の旭町にある「五味鳥」さんが元祖です。

 焼鳥を鉄板で焼くというアイデアはまさにコペルニクス的発想といえます。「五味鳥」さんは偉大なアイデアと味を今治にもたらしました。なぜ鉄板にしたか、という理由を聞くと、今治の人はせっかちだからこの方法をとった、今治の人は焼き上がるのを待ってくれない、との答えでした。炭焼や直焼だと時間がかかりますが、鉄板で焼くとお客へのメニュー提供時間が短くできます。しかも、個性的で美味しい、ということで爆発的な人気を呼んだのです。

 今治は水軍の歴史を持ち出すまでもなく、古くから海運が盛んな土地でした。波止浜地区では船の修理や新設のため、大小さまざまな造船所があります。ですから、焼鳥の鉄板は船に使った鉄板の余りで作られたのではないかと思っていました。これなら材料は簡単に手に入るし、鉄板は安く作れるに違いない、と考えたからです。しかし、鉄工所の人に聞いてみるとこれが大間違いでした。

 火を使うところにそのまま、船の鉄板を使うと、火力で鉄が歪んでしまうそうです。常時、熱を使う焼鳥屋に船の鉄板は不向き。鉄をプレスして硬くして曲がらないようにしないと焼鳥屋では使えません。ちなみに焼鳥用の鉄板を注文する場合は鉄工所より金属加工業者や板金屋さんの方が向いています。また、鉄板に厚みがないと駄目。鉄板の表面温度を一定に保つために少なくても一センチ以上の鉄板が必要です。

 家庭用のホームプレートで焼くと、材料をのせた時に鉄板の温度が下がりますが、厚い鉄板を使うと材料をのせても温度が下がらず、熱を熱いまま保つことが出来ます。そのため、肉の旨味を鉄板の熱で出すことが出来ます。但し、鉄板を熱くするため、十分以上前から火を付けておかなければなりません。こうした鉄板の違いがお店の味と家庭の味の決定的な違いなのだといいます。

 鉄板は火を落としても冷めにくいように厚い鉄板で作られています。両サイドには空気穴、下の方に鶏から出る脂落としの穴が開けてあり、鉄板の廻りにフチがしつらえています。熱源はガス。火力調節はほとんどしません。鉄板の中央部が熱が一番高く、次に鉄板奥、両端の順に温度が変わります。鉄板の温度は約三百度ほどに保たれ、鉄板の焼く位置で素材に応じた火力調節を行っています。

 炭焼は肉の余分な脂分を落とし、あっさりした味わいになりますが、鉄板焼は焼きに加え、蒸す、揚げるの要素が加わり、早く火が通って肉の旨味が増すのです。
 炭焼と鉄板焼の違いが大きく出るのは今治鉄板焼鳥の名物の「皮」。炭焼の「皮」は串に刺され、柔らかい食感を楽しみますが、鉄板焼の「皮」は表面はカリッと硬く、中は柔らかくジューシー。気になる脂分をほとんど感じさせません。「皮」の材料と名前は同じでも、鉄板焼と炭焼ではまったく別ものと考えたほうが良さそうです。
 また「野菜焼」も炭焼では脂分が飛んでしまい、物足りない印象を残すが、鉄板焼では脂分が程良く残り、肉の旨味を感じるため美味となります。「つくね」や「鳥ねぎ」などは炭焼の方が味の深みがあるようです。鉄板焼では火が通りすぎて肉が硬くなったり、ジューシーな味わいが楽しめにくく平板な味となります。

 鉄板焼は脂分が少し残ることになりますが、この脂分が肉の旨味を感じさせる最大の要因です。脂の旨味が焼鳥でありながら串を刺さない、「早い、安い、うまい」で人気の今治鉄板焼鳥を繁昌させる要因となっているようです。

 鉄板焼鳥のメリットというと、調理人が少なくて済むことが大きな特長です。小さな鉄板スペースで、短時間に、調理人でなくても美味しく作れるため、人件費がカットでき、厨房スペースが少なくて済みます。カウンター中心の店鋪が多く、皿の上げ下げの手間が少なくて済み、無駄な動きをしなくて良いのです。オペレーションがスムーズに出来る、ということです。

 鉄板焼鳥では人件費を押さえることが出来るため、設備投資も少なくて済みます。しかも、のんびりくつろぐ店ではないため、回転率は高く効率的。店の改装も頻繁に行う必要もありません。合理性を尊ぶ今治人にとって鉄板焼鳥屋は経営に向いたシステムであることは間違いないようです。

 客のメリットとしては「早い・安い・旨い」という一昔前の洋酒の宣伝コピーのよう。軽く食べて呑んで一人前二千円前後。これくらいの金額なら懐を気にしないで済みます。こうした価格設定が可能なのも店の人件費がかからず、設備投資が少なくて済むことが焼鳥の値段に反映されるからでしょう。