必殺、読書人!!

 

319:外交・国際問題





   「非戦」  監修:坂本龍一+sustainability for peace  幻冬舎
 

 2001年9月11日に起こったアメリカでの同時多発テロは今まで世界がいかに大きなひずみをその内に抱えてきたかを白日の下に曝す出来事だったといえるでしょう。それまでもかなり多くの人たちが超大国アメリカへの経済力や権力の一極集中に対して懸念を抱いていたのは確かですが、この事件をきっかけにそのひずみの広がりと深さとを思い知らされた感があります。この「非戦」という本は以前から一部で知られていたアメリカを軸とした国際社会のひずみを広く知らしめると同時に、それに対して倦むことのない戦いを続けている人々がいることを教えてくれます。

 今回のテロ事件をきっかけにいかに多くの人たちが文明社会の繁栄の影で苦しんでいたかを知るようになりました。皮肉なことですが、このテロが起こらなければアフガニスタンであれだけの悲劇が進行していたことがこれほど広く知られることはなかったでしょう。しかし、その一方で、多くの人たちはその無知と無関心のままに一連の事件の展開を眺めています。アメリカ人の多くは未だに自分たちがなぜ攻撃されたのかを理解できず、テロリストたちを理解不能な「ならず者」と考えていますし、かなりの日本人もカブールの解放以来、事件は一段落したかのように感じているようです。確かにこのテロ事件が新しい戦争の始まりに過ぎず、アメリカの一時的な勝利がより悲惨な事態を招きかねないことを理解している人も多くいますが、社会全体にその危機意識が共有されているとは思えません。

 21世紀最初の危機として、今回の事件ほど各自の関心の違いが各自の持つ情報の違いに反映されたことはないでしょう。インターネットの世界では多くの日本人がアメリカの報復に対する懸念を表明する一方、アメリカの今までの高圧的なやり方を知る機会に恵まれました。しかし、日々報道されるニュースしか見ることの出来ない人たちは表面的な事態の進行しか目にすることが出来ず、その背景にある国際社会そのものの問題を十分に理解出来ているようには思えません。「非戦」というこの本は、その意味で、インターネットに時間を割くことの出来ない普通の人たちにも事の背景を知ることが出来る格好の機会を与えてくれているように思えます。

 そもそも、この本はネット上のさまざまな意見を短期間で収集しまとめ上げて出来上がった本です。その中では何となく私たちが今までおかしいなと感じていた事柄の真相が語られると同時に、それに対してどのような活動がなされているかを知ることが出来ます。このテロの問題について多くのことを知っている人ほど、現在進行する事態を見るにつけ、暗澹たる気持ちになるものです。しかし、この本はテロの問題について多くの事を語ると同時に、何らかの希望があることを人々の実践を通じて感じさせてくれる本でもあります。

 確かに今回のアメリカの行動は私たちの世界を報復の連鎖に導くものであり、多くの人たちの心に怒りの炎を掻き立てることでしょう。しかし、怒りは長くは続きません。いずれ「戦争」を叫んでいるアメリカの人たちの間にも、アメリカに反感を持つ第三世界の人々の間にも倦怠感が漂うようになるでしょう。しかし、その一方で平和を望む心は忍耐強く世界に働きかけます。私たちが希望を失わず、忍耐強く少しずつ自ら出来ることを続けて行くならば、再び世界は平和への道に立ち返ることができるでしょう。この「非戦」という本はそのような希望と忍耐を私たちに教えてくれる本でもあります。.
 

 ※ 「非戦」についてはHPがありますので下にご紹介します。
 
  非戦  SUStainablitly for PEACE     http://www.sustainabilityforpeace.org/
 
 

[読書人・目次]