必殺、読書人!!

 

334:人口・土地・資源




「人口問題のアポリア」 竹内啓 岩波書店

 人口問題に取り組むための基本的な態度を説いた本です。人口問題は一方では自然と人間との関わりの内にあり、他方では社会と人間との関わりの中にあります。たとえば、人口の増加は食糧や資源などの限界に制約され、環境にも多くの問題をもたらします。また、その問題はは文化を含めた社会システムによって左右され、社会の根本的改革なくしては解決されません。世の中には単に政治的・経済的立場から適正人口を論じる向きがありますが、著者はヒューマニズムの立場から強くこれを非難します。「理性的存在者(=人間)は、決して手段としてのみ 使用されるのではなく、同時にそれ自身目的として使用されねばならない」というカントのことばを出すまでもなく、人間の数をを単に政治的・経済的問題の解決のためだけに云々するのは本末転倒となるわけです。

 表題にある「アポリア」ということばが示すように、人口を論じる際、得てして社会のために人間を論じているのか、人間のために社会を論じているのか分からなくなる危険があります。大分県の県庁職員の結婚を推進するために「WM(ウェディングマーチ)作戦」(船上での集団見合い、当然、今はやってません)を支持していた人などはまずこの本読むべきでしょう。
 
 

「凝縮社会をどういきるか」 古田隆彦 NHKブックス

 これから日本などの先進国では人口が減少していくのであるから、社会のあり方もそれに合わせなくてはならないという、ごく当然のことを述べている本です。社会学の世界では人口の減少はすでに所与の事実であって、これに逆らって以前の社会・経済的政策を続けようとするのは天に唾をはくようなものだというのはすでに常識と言えるでしょう。以前、大分県の「社会学研修」(県職員にはこのような勉強になる研修もあるのです)に参加した際、講師の先生がこのことを唾を飛ばしながら力説しておりました。にもかかわらず、このことをまともに取り上げる政治家・エコノミストの数はまだ多くありません。これだけ不況が長引いてみんなタダ事ではないと感じているにもかかわらずです。例外は、平松大分県知事のお友達でもある堺屋太一さんぐらいでしょう。

 この本ではこのことを資料を使って丁寧に説明した上で、今後の社会のあり方を模索しています。著者の古田さんは日本の江戸時代や現代のヨーロッパ社会をモデルにして考えているようですが、私はイスラムや中国の中世・近世の社会(特にイベリア半島の中世社会)も参考にすべきだと思います。というのは、すでに日本は国際社会の中に飲み込まれており、外国人との共存を考えることなしには将来のモデルは描けないと考えるからです。

 日本の小子化の将来を考える人の多くは外国人との共存をあまり想定しません。それは日本の社会が多民族社会にはならないだろうという期待があるからなのですが、果たしてそれで済むのかは疑問です。たとえ、外国人の流入を阻止できたにせよ、同質神話の中で生きている日本人だけで新たな日本を構築するのはかなり困難だと言えるでしょう。「特殊化の果てにあるのはゆるやかな死」というのは Ghost in the Cell の中のセリフですが、すでに特殊化の限界に達しつつある日本がいかにしてその袋小路から抜け出すかは大変な課題だといわざるを得えません。

 いずれにせよ、希望はあるにしても、凝縮社会の将来設計は発展途上にあると言えるでしょう。
 
 

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