必殺、読書人!!

 

368:社会病理
 



「<対話>のない社会」 中島義道  PHP新書
 

 これは立命館の哲学科の同窓会のことですが、哲学出身の人間は人前でマイクを持たせると、相手が聞いていようがいまいがお構いなしに自分の話したいことを話しまくるという話がでて、一同異常に盛り上がったことがあります。世間では「日本人は・・・」「アメリカ人は・・・」という国民性のことが話題になりますが、哲学する人というのはその違いを乗り越えて一定の特性を共有している気がします。著者である中島さんは、このような話したいことは話す、言いたいことは言うという哲学する人の典型であり、思いやりと優しさという沈黙が支配するこの国の人々に果敢に挑戦されています。

 日本人というのは誰かが犠牲になることを極端に恐れるために身動きがとれなくなることがよくあります。しかし、これは一種の潔癖性であって、完全に誰も犠牲なることなく傷つかずに世の中動くはずはありません。この手の潔癖性は結局、多くの人を傷つけ、社会そのものをおかしくします。日本人が言葉を失い、時として「切れて」しまうのはこのせいだと言えるでしょう。哲学する人はこのことを直視し、いかにしてこのような最悪の事態に陥らずにすむか真面目に考え続けています。中島さんはそのために正しくより安全な言葉によるケンカの仕方を教えてくれているといえるでしょう。中島さんが指摘するように、今の日本には「会話」はあっても「対話」はありません。ですから、今の若者は傷つくことを恐れずに話し合える友だちがいないようです。また、そのために彼らの語彙不足、論理的思考力の低下も著しく、日々の出来事に感覚的に流されているところがあるようです。私も長いことアニメファンをやっていますが、最近のアニメファンは何か作られたアニメそのものに積極的にケチをつけることが少なくなったように思います。あのエヴァンゲリオンについて言えば、「・・の謎を解く」とか「・・の秘密」というネタは多いのですが、これはすでに与えられた答えを探しているにすぎないと言えるでしょう。

 いずれにしても、おとなしすぎる潔癖性の日本人に中島さんはドン・キホーテのように立ち向かうのですが、同類の人にスペイン狂で有名な(仮面ライダーの死神神博士の方が有名かも知れないが)天本英世さんがいます。二人はいい勝負をしています。

P.S. 天本さんの著作には「天本君吠える!」(KKベストセラーズ)があります。
 
 

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