健康科学特論レポート
最近、雑誌・新聞等において頓に「健康」という文字が飛び交っているように思われる。今、机上にある地方自治体の広報誌を広げてみても、「○○健康診断のお知らせ」に始まり、「女性の元気アップ教室」「いきいき健康体操一日教室」「健康づくり(ダイエット)体操教室」「運動不足・ストレス解消リズム体操講座」等など、“生活習慣病を予防し、健康な生活を送りましょう”と盛んに呼びかけている。
 健康とは何か。健康の概念はその時代や国によって異なる。1946年に世界保健機関(WHO)が作成した憲章の前文によると「健康とは、肉体的・精神的ならびに社会的に完全に良好な(well being)状態であって、単に疾病や虚弱でないというだけではない」とされており、これは本来人間の基本的権利として望まれるものである。日本においては、「健康日本21(healthy Japan 21)」として、2000年〜2010年を目標に展開される10ヵ年戦略・第三次国民健康づくり対策というものが進行中である。それは、健康寿命の延伸を目標に個人の力と社会の力を合わせて推進しようというもので、生活習慣病などの対象分野を選定し、目標値を設定して科学的証拠に基づいた健康づくりを進めること・個人の健康観を尊重して目標達成のための環境を整備すること・多様な支援組織が連携して取り組むこと・地域の状況と合わせた地方計画を作成し参加型の政策とすることなどの特徴があげられる。
 なお生活習慣(Life style)と疾病との関連性について考える際の基準として、8つの健康習慣(HPI :Health Practice Index)チェックが示されている。
@ 喫煙をしない
A 過度の飲酒をしない
B 毎朝朝食をとる
C 毎日7〜8時間眠る
D 毎日平均9時間以下の労働にとどめる
E 身体運動スポーツを定期的に行う
F 栄養バランスを考えて食事をする
G 自覚的ストレス量が多くない
チェックポイントが0〜4は不良、5〜6は中庸、7〜8は良好、となっている。
では、これに当てはめて考えてみようと思う。
@ 私は、タバコを吸った事がない
A 私は、酒はまったく飲まない
B 私は、ここ十数年朝食はパンに紅茶と決めている
C 私は、レポート提出に追われない限り6〜7時間の睡眠が必要である
D 私は、自営のため就労時間が10時間になってしまうことも止むも得ない
E 私は、スポーツといえるようなものは一切行わない
F 私は、食事は粗食を心がけている
G 私は、ストレスをあまり感じたことがない
以上から、私は6つで中庸ということである。
 健康行動を考える時、ナチズムの医療政策における「義務としての健康」強いては「健康強迫」に思いが至る。確かにその内容には、母子保健事業(日本にも導入されたムッター・パス:母子手帳)・ガン対策・結核対策・性病対策・旅行レクリエーション普及・ハイキング‐スポーツの奨励等の予防健康管理の先見が見て取れる。しかし、常に健康であるための過剰な管理と強迫宣伝は、社会に与える影響は決して良いものばかりではないように思われる。
 「国民生活基礎調査」の有訴率で示されているように、国民の4人に1人はなんらかの愁訴を訴えている。多くの人々は健康とは言いがたい状態にある。これからは、「健康」か「病気」という二分法的発想ではなく、「未だ病気に至らぬ健康」という“未病概念”のもとに、「健康」と「病気」を一元的に捉える健康観の重要性が説かれても良いのではないだろうか。
 われわれを取り巻く文化的体制は刻々と変化してゆく。基本的行動規範は、われわれ一人ひとりの思考のあり方にかかっている。私は、これからも日々の糧に感謝しながら、多少の身体の不都合さともうまく付き合いながら、また老いてゆく自分自身の変化も楽しみながら、私なりの健康行動を模索し続けていきたいと考えている。

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