真鍋先生のコレクション

ベル1号 ブラジルのベル

世界のベルを楽しめる真鍋スタジオ

真鍋事務所のベル

イラストレーターである真鍋さんの600を超える素敵なベルのコレクション
の一部をご紹介します。     「部屋は四角だから、四つの璧があるが、
仕事机に座って右側の壁は洋書、後側はファイルやスクラップの柵、左側は
ベルのコレクション、そして真正面の壁の窓にガラス器を並べてある。 ♪♪


このベルは外国旅行の時のコレクション。陶器とか、ガラスとか、金属
とか、材料も形もそれぞれお国ぶりでちがうし、何よりも音がみんなち
がうので、視聴覚的収集である」 この文章は真鍋さんの著書『発想交
差点』(中公文庫)の中の「四チャンネルの壁」の一節である。 ♪♪

 新宿御苑に近い真鍋さんのお宅にお邪魔して、招じられた部屋の様子は、
まさに真鍋さんがエッセーにお書きになったとおりであった。 ♪♪♪

 真鍋さんがベルのコレクションを始められたのは、三十年前の1964年
であった。この年の4月に開幕したニューヨーク世界博に、真鍋さんは
『週刊朝日』の特派員として取材に出かけられた。  ♪♪♪♪♪♪♪

「その仕事が終わってから、私は作家の星新一さんと一緒にパリへ行き
ました。そのときに、私は一人でパリを歩き、タクシーに乗ってホテル
へ向かったんですね。パリの街は夜もショーウインドーを照明してきれ
いに見えるように飾りつけていますよね。で、タクシーが止まったとき、
ショーウインドーの中にきれいなベルを見かけましてね、『ああ、きれ
いだな』と思って、それをぜひ買いたいと思ったんですよ。でフランス
語は話せないですから、ホテルに着くまでの間、その帰り道を覚えてお
こうと、どういうふうな道筋でホテルに帰ったかというのを覚えて、そ
の記憶をたどって翌日、行ってみたのですよ。そうしたら、ちゃんとそ
の店にたどり着きましてね、それで買うことができたのです」 ♪♪♪

 そのときの記念すべき第一号のベルは、緑色の二房のベルである。(写真)

「外国へ行くたびに注意して見ていますと、ベルは必ずどこかに置いて
あるものです。見当たらなければ、私はパスポートの裏に自分で撮った
ベルの写真を入れてますから、それを見せてこういうものがないかと聞
くんです。ジンパブエでも、カメルーンでも、カイロでも、そうして探
してもらいました。それから値段の交渉ですね。それも一種の社交です
し、コミュニケーションですからね。 言葉ができなくても、言い値で
買ったんでは面白みも、思い出もありませんから」  ♪♪♪♪♪♪♪

 こうして、現在までに訪れた国は約60カ国。ベルのコレクションは、
いつの間にか600を超えるまでになった。 イタリアの史都シエナの
カンポ広場で、ベルを見かけた真鍋さんは、同行した知人に「買ってく
るから先に行ってて」と言って店に入った。 やっと買って外に出ると、
知人の姿は見えなかった。「もう中世の街ですから、迷路の迷路で、丘
の上の街ですからやっと丘を下りて、タクシーなんてありませんから、
マイカーで来てた若い人にやっと送ってもらったんです」というように、
ひとつのベルを手に入れるまでには、ひとつのドラマがあり、思い出が
隠されている。  ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

「ご覧のように全部スーベニアですから、高価なものはありません。高
くても60ドルくらいで、平均10ドル台です。お土産ですから、その
街の地名だとか、街の花や名所であるとかを書き込んであつたり、彫刻
されてたり、ジンパブエのようにコインが付いている。  それぞれに、
その国らしい特徴があって興味がつきませんね」

 集めたベルは全部、いつ、どこで、いくらだったか、真鍋さんは記録
しているそうだ。ベルを手に持って振ると、きれいに澄んだ音がする。
それぞれが異なった音を奏でるベルの音は、ほのかな旅情を誘い、気持
ちを和らげてくれるのだった。「にちだん 1994.JAN NO.18」より引用

ベル1号