(March 2004)
(あっ、サザエですね。先生、サザエ好きですからね。どこで買(こ)うて来ましたんです?)
実は、この前、職員の研修旅行で島根、鳥取に行ってきまして。境港に寄ったときにね。
(そう言えば、先生、子どものときから、貝殻集めてましたな。)
ということで、今回は貝(殻)の話。
実は、小学生に上がる前から、貝殻に興味を持っていました。今でも覚えているのは、近所の家に遊びに行った時に、見せてもらった図鑑。といっても、薄くて、横長い簡単なものでしたが、その図鑑の臭いが今も思いだされます。ぼくんちには図鑑がなかったのでうらやましかった。
もうひとつは、同級生の女の子の家にあった本。そこに載っていたサザエの写真が忘れられません。フジツボ(baranacle)やら、いろいろな海藻
(seaweed) 生えていて、いかにも磯の臭いがするような写真でした。
それから、小学校の低学年の時だったと思いますが、上級生が持っていた理科の教科書に海の中の絵が載っていて、その絵の中にサザエが描かれていました。学年があがって、その教科書がもらえる日を待ち遠しく感じていたことを覚えています。
小学校の頃は、夏休みの宿題か何かで、貝殻を集めてくる子どもが多くいました。サザエと言えば、食品ですから、食べている家の子は持ってくることができます。でも、ぼくの家では、サザエを食べる習慣が(経済的に)なくて、サザエの殻を手に入れることはできませんでした。ですから、サザエの殻は憧れの的です。サザエ以外にもよその家ではいろいろ貝を食べていたのでしょうね、近所の家の前の溝に食べたあとのツメタガイの殻が沈んで入たのを記憶しています。ぼくんちで食べる貝といえば、アサリくらいでした。
さて、サザエといっても、二つのタイプがあります。
波の荒い大平洋や日本海などの外海にいるものは、刺がありますが、瀬戸内海のような内海にいるものは、刺がほとんどないか、まったくないのです。猪野博士という学者が刺のあるサザエを波のない環境で飼育したら、それ以後成長した殻には刺が生えないとうことで証明されたそうです(保育社『原色日本貝類図鑑』による)。刺があるほうが一般的なのでしょう。マンガの『サザエさん』の頭を見てください、ちゃんと刺があるようなヘアスタイルになっているでしょ。
この刺のあるものが子どもの頃から好きでした。貝はたくさんありますが、ぼくは、刺のあるサザエが一番美しいと思っています。色こそ地味ですが、形は最高です。しかし、形のよいサザエを得るのは難しいのです。自分で海に潜れるなら別ですが、料理に出されたものや、魚屋さんで売っているものは、輸送によって、たいてい刺が折れています。食用ですから、刺の形など関係ないわけです。
写真のサザエも、いくつかのお店を回って見つけたものです、残念ながら、刺が1本折れているところがありますが、今まで集めたものの中ではもっとも形がよいものです。殻をじっと見ているものだから、お店の人から、「どれも新鮮ですよ」と声をかけられました。「いえ、刺のいいものを探しているんです」
怪訝そうな顔をされました。これ(6個セットのフ中のひとつ)を買って、ビニール袋に入れてもらっている時に、「そうっと、入れてください。刺が折れるといけないので。」またしても、不思議そうな魚屋さんの顔。でも6個で千円とは、安い!(ちなみに、他の5個は刺の長さがこの半分以下でした。)
では、いよいよ英語の勉強です。
貝は英語で shellfish 、貝殻は
shell です。
つぎに代表的な貝の名前を挙げますから、下から、その英語名を選んでみてください。(答えはページの一番下)
1サザエ 2ホラガイ 3ムラサキイガイ 4ハマグリ 5アコヤガイ 6カキ 7マテガイ 8タカラガイ 9カサガイ 10アワビ 11ザルガイ 12ホタテガイ
アcowrie(cowry) / イrazor clam / ウclam / エtriton (=trumpet shell) / オabalone(=ear shell) / カturban shell / キoyster / クpearl oyster / ケcockle / コlimpet / サmussel / シscallop
つぎは、上記の貝に関係のある、英語の表現です。
clam up 口をつぐむ
as close as a clam けち
The world is your oyster. 世界は君の思いどおりだ。(Shakespeareより)
as close as an oyster 非常に口が堅い
like as an apple to an oyster 似ても似つかない
R months 牡蠣(かき)が食べれる、"R"の付く月。
conch 巻貝
bivalve 二枚貝
mollusc 軟体動物
貝に関連した民俗学的なことをちょっと紹介しましょう。
まず、cowrie 。タカラガイ。これは総称であって、個々の貝には別に名前がついています。例えば、左のものは、ヤクシマダカラガイ(これは、デパートかどこかで昔買ったもの。)
「宝貝」と言われるように、アフリカや南アジアでは貨幣として使われていました。英語には money cowrie
という貝があります。まさに、money だったわけです。漢字の「貝」は実はこの貝の象形文字なのです! (確かに「貝」はハマグリや、サザエには見えませんね。「貝」の字を真ん中から縦に切って、少し離してみてください。タカラガイの開いた側に似ているでしょ。昔はそんな字体でした。)ですから、お金に関する文字は「貝」が付くでしょ。「売(賣)る」とか「買う」とかね。
それから、日本では「子安貝」(こやすがい)とも言います。つまり安産の貝ということですが、これについては、南方熊楠がこう書いています。
「貝子(こやすがい)は……わが国にも子安貝と称し、産婦に握らせてその難を防ぐ……。これ古ギリシア人がこれを女神アフロジテの印とせしごとく、その形甚(いと)女陰に似たる故、最も人と鬼の邪視を避くるに効ありとせるに基づくならん……『竹取物語』に、赫耀姫(かぐやひめ)、燕(つばくらめ)の子安貝をくれなん人に妻たるべしと望めるなど、合わせ攷うべし」(「小児と魔除」)
出産の時に手に握らせるということですが、その場合の子安貝は、特にハチジョウダカラガイというものを指すそうです。上の写真のものは、3cmくらいな小さなものですが、ハチジョウダカラガイは握るのにちょうどいい大きさです。安産、魔よけのためということですが、理由が面白いですね……。民俗的に性というものが人間の生活に深くかかわっていることがわかります。貝と女性の関係ということでは、次の『土佐日記』の例も同じです。(それにしても、燕に子安貝などあるはずないし、これを取るのに失敗した時から、苦労しても成功しないことを、苦労の「かい(貝)がない」と言うようになったと『竹取物語』に書いてありますが???????????????)
次は、abalone
、アワビ(鮑、鰒)。
アワビと言えば、「磯のあわびの片思い」という言葉がありますね。ハマグリのような二枚貝と比べ、アワビは一枚しかない、片一方しかない、というので、片思いにかけてあるわけです。しかし、事実は、アワビは巻貝なのだ! よ〜〜く見ると、端のほうで小さく巻いています。形は耳に似ているので英語では
ear shell とも言うし、日本語でも、アワビは「ミミガイ科」に属し、まさに「ミミガイ」という、アワビを長くしたような貝もあります。
アワビで思い出すのは、『土佐日記』の一節。これも熊楠先生に教えてもらったことですが、
「国文の典型たる『土佐日記』に、筆者紀貫之朝臣の一行が、土佐を出てより海上の斎忌(タブー)厳しく慎みおりしに、日数経てやっと室津に着き、「女是彼浴みなどせんとて、あたりの宜しき所に下りて往く、云々。何の葦影に託けて、ほやのつまのいずし、すしあわびをぞ、心にもあらぬ脛(はぎ)にあげて見せける」。この文を従前難解としたが、谷川士清の『鋸屑譚』に始めてこれを釈いた。ホヤは仙台等の海に多く、科学上魚類に近いものながら外見海参(なまこ)に酷似す。イズシは胎貝(いがい)の鮓で、南部の方言ヒメガイ……、またニタガイ……、漢名東海夫人、みなその形によった名で、鰒を同様に見立つること、……。……「何の葦影に託けて」の何は河の誤写……。……水渉るため脛高く掲げしかば、心にもあらで、ホヤの妻ともいうべき胎貝や鰒様の姿を葦の影の間に映し見せたという、……」(『十二支考』、「馬」)
性にかかわるこのような、ユーモアが文学作品の中にもたくさんあるのでしょうね。『今昔物語』とか、チョーサーの『カンタベリー物語』の例は、このサイトのどこかに紹介したことがあります。
ちなみに、上の「胎貝」(イガイ)というのは、このあたりでは「セトガイ」と呼トんでいるもので、ご飯に入れて炊いたり、スープにしたりしていましたが、最近では少なくなったのか、あまり見なくなりました。
また、「「何の葦影に託けて」の何は河の誤写……。」の部分については、小学館の日本古典文学全集版によると、「姿を十分隠すに足りぬ、何ほどもはえていないあしかげという意と、「何のあしきこと」(なに、かまうものか)という意をかける」。小学館版では、このあたりは
p.42 にあります。
アワビの殻の身がある側を見たことありますか。ちょうど、右の写真のような色になっています。右はサザエの口ですが、きれいですよね。この真珠層を英語では、mother-of-pearl といいます。これが、アワビだと比較的平たんで、広いので、螺鈿(らでん)に利用されます。漆器などに埋め込まれたいる、あのキラキラした部分です。
次は triton。ホラガイ。と言えば、まずは修験者が吹く笛にしてある法螺貝でしょ。非常に大きな貝で、ひとつ欲しいのですが、大きなものだと、数万円もするので、まだ買っていません。買うならもちろん、笛にしていないもの。
英語では trumpet shell。用途は同じですね。それから、別名 triton。これはどうでしょう。トリトン。ギリシャ神話にちなむ名です。
Triton=a sea god, son of Poseidon and Amphitrite, pictured as having the head and upper body of a man and the tail of a fish and carrying a conch-shell trumpet. (Webster's New World Dictionary)
ディズニー映画の『リトル・マーメイド』を見たことがある人はわかりますよね。Arielのお父さんですよね。
最近の図鑑は生態写真を中心にしたものが多く、それはそれで、生きた貝の姿が見えて楽しいのですが、貝殻の図鑑ということであれば、やはり、保育社の『原色日本貝類図鑑』(正・続)の2册の写真が美しいですね。実物以上に美しいのでは。見ているだけで、うっとりします。現在入手可能かどうか分かりませんが、価格的にも手ごろでお薦めです。
最後に早口ことば(tongue twister) をひとつ紹介してお別れです。
She sells sea shells on the seashore.
(答え)1カ 2エ 3サ 4ウ 5ク 6キ 7イ 8ア 9コ 10オ 11ケ 12シ