(April 2005)

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The Da Vinci Code とその他、Dan Brown のミステリー小説を読んでいて、気がついたのですが、シェイクスピアの英語が顔を出すのですね。気がついた表現を挙げてみましょう。
(1)"Aha!" Teabing exclaimed again. "Therein lies the rub!" (The Da Vinci Code, Ch. 58(p.334))
『レクシス英和辞典』を引いてみると、「rub=障害、困難、難点」とありますが、実はこれは、シェイクスピアの『ハムレット』の中の、あの "To be or not to be,..." で始まる独白の中に出てくる表現なのです。原文は、"There's the rub." です。
(2) Teabing grinned. "Christianity is my field of study, Robert, and there are certain sects who wear their hearts on their sleeves." (The Da Vinci Code, Ch. 65(p.372))
同じ英和辞典で調べてみると、「感情[愛情]をむき出しにする、心の内をさらけだす」とありますが、これは、シェイクスピアの『オセロ』の中のせりふ(第1幕第1場)から出たものです。
(3) "Who knows...." Hale sighed
dramatically. "There are more things in heaven and earth
than are dreamt of in your philosophy."
"I beg your pardon?"
"Shakespeare," Hale offered. "Hamlet."
"Read a lot while you were in jail?"
Hale chuckled. (Digital Fortress,
Ch. 31(p.166))
これは、ちゃんと出典が書いてありますね。まあ、引用と言った方がいいでしょう。しかし、この文はとても有名、というか、シェイクスピアの台詞はすべて有名なのですが、とにかく、有名。
日本では、明治時代に、藤村操という一高の生徒が華厳の滝に飛び込んで自殺する事件があったのですが、その遺書(滝の近くの木に「巌頭之感」と題して書いてあった)の中に引用されていて有名です。
巌頭之感
悠々たる哉天壤、遼々たる哉古今、五尺の小躯を以て此大をはからんとす。
ホレーショの哲學竟に何等のオーソリチーを價するものぞ。
萬有の眞相は唯一言にして悉す。
曰く「不可解」。我この恨を懷て煩悶終に死を決するに至る。
既に巌頭に立つに及んで胸中何等の不安あるなし。
始めて知る大なる悲觀は大なる樂觀に一致するを。
この中の「ホレーショの哲学」が英語的には問題でよく話題になります。ハムレットのことば、 your philosophy の your をそのまま「君の哲学」ととって、「ホレーショの」と訳しているのですが、実は、"your philosophy" の "your" は「君の」という意味ではないのです。どういう意味だと思いますか? ここでは、「いわゆる」の意味です。だから、特に誰の哲学というのではなく、一般に哲学と言われているもの、を指しているに過ぎないのです。
ついでに言うと、この藤村青年に夏目漱石が英語を教えていたのですが、自殺の少し前、授業の予習をしてこなかったので、「予習してこないような奴は授業に出なくてよい」と漱石が叱ったのだそうです。それから藤村青年は授業に出てこなくなって、滝に飛び込んだ。漱石はそのことを気にしていたようです。もちろん、藤村青年の頭の中には、英語の授業のことなどなかったでしょうが。ぼくも、予習してきてなくても、叱らないようにしないとね。
シェイクスピアの英語については、すでに何度もこの雑学でも紹介しましたが、こんなふうに今も使われていたり、引用されていたりするのですね。すごい!
以前に、シェイクスピアの語彙数ことを書きました。その時、出典が不明で明確なことが書けなかったのですが、最近買った本を読んでいたら、同じようなことが書いてあったので、ここに紹介します。
シェイクスピアの用いた語彙がいかに多彩・豊富なものであったかについては改めて述べるまでもないが、全作品中に用いられた(異なり)語数は、屈折形を無視しても29,066語に及ぶといわれている。これはAV(=欽定訳聖書)の6,568語はもとより、ミルトンの場合の詩作品約7,500語、散文作品14,000語に比べても著しく多い。現代の一般的な英米人の平均語彙は数え方によって大きな差があるが、1万ー1万5千などといわれる。これは聞きあるいは読んで分かる認知語彙であり、個人が実際に用いる運用語彙は3千ー4千という説もあるから、3万に近い運用語彙をもつシェイクスピアは古今を通じ最も語彙の豊かな作家といってよいであろう。(寺澤芳雄著『ことばの苑』、p.139)