「が?」
修野賢三、酒とカルピスの違いもわからない中年は目を覚ました。口が開きっぱなしである。
「うが……」
垂れたよだれなぞふきふきして、ぽあっと起き上がれば。
「ここはどこだ?」
見おぼえ皆無の部屋だった。
木製ブラインドから差しこむ朝日が目に優しい。寄せ木細工の床には手入れのいいアクセントラグ。何をどう間違っても修野の部屋ではない。
彼は広いベッドに寝ていた。じぶんちであれば、ベッドはベッドでもせまい。シングルサイズのパイプベッドとゆーやつで、ヨメ取って引っ越しする部下がもらってくださいとすがるのでいただいたという。シンプルかつロークオリティリサイクル。
で、その部下は涙目で修野の手をにぎりしめ、俺結婚しても一生ボスの部下ですっなどと叫んだものだ。結婚すると上下関係がなくなるとでもいうのであろうか、変なやつである。
修野も変なやつだと思った。ただし、彼の発想はちと異なる。
修野にとり一度部 下だったやつは生涯部下である。たとえ相手が警視正になろうが、左遷されようが部下である。部下だということはいついかなる時でもこき使えるということ。
涙目の部下が聞いたらもっと涙目になることだろうが、そんなわけで、修野は警察をやめたあともやはり元部下たちを手足のごとくこき使っていた。
天上天下唯我独尊傍若無人独立独歩阿鼻叫喚そこのけそこのけ修野が通るなお人なのである。
そんな彼に敵は……ある。
「あら起きた?」
カラカラと扉を開ける音がして、美人が顔を出した。
「く、工藤深雪!」
その名も天敵。修野の次の一声はとてつもなく情けなかった。
「俺、どうなったん だ?」
「ふふふ」
深雪、ふくみ笑い。
「夕べ、覚えてる?」
「うんにゃ」
「そーう。洪明にお酒飲まされたのよ。飲めない人にむりやり飲ませるのはセクハラよ」
「セクハラあ?」
正確にはサケハラか。
「大丈夫。カタはつけといたから」
どーゆうカタを?
聞きたいけどちと怖い。
「そ、それで俺は?」
「意識ないから、私が介抱したげて、私んちに連れてきて」
「つ、つれこんで……」
「寝かせたげたの」
「寝た……」
修野五言絶句。そんで、その後のセリフもどーしようもなく情けなかったものである。
「な、何もしなかったろうな?」
男のセリフじゃないって。
色をなして叫ぶ修野のさまに、深雪はにやりとした。
いや、本人はにっこりのつもりなんだろうけど。にやりとしか思えない。少なくとも修野には。そして。
「責任取ってね」
深雪のピンポイント爆撃に、撃沈される修野がいた。
そんなわけでダンナ、責任取ってね。ばーい深雪。
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