講演

自動車運転と健康管理


交通安全と成人病:その3

この写真は皆さんご存じの伯方大島大橋です。立派に完成し、景色も良いことから、非常に快適なドライブ出来るはずなのですが、ここを通過するとき、皆さんは本当に快適でしょうか。ドライバーの方にも、周囲の状況は全く気にならず自己中心の運転をされる方と、周囲の状況を判断されて物事を客観的に判断できる方が居られますから、運転の際にはドライバーの中にも色々いる、とうことを念頭に入れておく必要があります。
 この5月に友人の病院で救急手術があり、急いできて欲しいとの依頼を受け自分の病院はそこそこに済ませ、この橋にさしかかったとき、前を自転車並の低速度で行く軽のボンゴの後方につけました。時間を急いでいますし、追い越し禁止区域でもありましたから、しばらく我慢しましたが遂に追い越しをかけました。運転していたのは中年の女性で、隣の男性と横向きながら喋っていました。道理で車もフラフラしているはずです。そうしますと、しばらくしてパトカーが後方に現れ、「前の車、止まりなさい。」そして罰金と減点2点の処分を受けたのです。追い越しをかけた私が悪いのは当然ですが、一応高速道路ですから、常識以下のスピードで走る車をなんとか注意する事も必要だとも思いました。

 もう数年前のことになりますが、丁度私が追い越しをかけた橋の上あたりで、大事故がありました。不幸なことに死亡事故でした。乗用車がセンターラインを超えて、ブレーキをかけないまま、対向車の大型トラックに衝突したのです。トラックの運転手は危険を感じ衝突前に車を停止していたといいます。この事故もブレーキをかけた後がなく居眠りか、脇見運転かという結論でした。この様なケースは多く、新聞などでもブレーキをかけた後がないので、脇見運転かというふうに記載されていますが、いろいろのケースが考えられと思います。例えば衝突以前に運転手の方に突然、身体の異常をきたしたことも考えられます。先ほど言いました様に、脳卒中とか急性心不全などは何の前触れもなく急にやってくることも多いのです。また健康な方でも急に意識を失うこともあるのです。

話は変わりますが、お年寄りの中には、ちょっと前に頭を打ったが、大したことがないので放置していた。ところが、知らぬ間に頭蓋骨の下の硬膜下に血腫が生じていて、ある日突然、意識消失の発作を起こすことがあります。
 健康な方で、突然意識がなくなり、倒れることもあります。皆さん、失神と言う言葉をご存じだと思います。本日お集まりの皆さんの中にも、お酒を飲んでトイレで用足しをしたところ、突然意識がなくなり倒れたというかたは居られませんか。先日、飲酒したあと立ち小便後に海に転落し不幸にも死亡され方がいました。失神とは医学的には、何らかの理由で、脳の血流量が減少し、一過性の意識消失で、10〜数十秒、長くて一分以内続きます。
 原因としては、血液を送り出す心臓に原因がある場合と、心臓には異常がないが、血液を送る調節をする、自律神経系に異常がある場合が考えられます。したがって心臓の悪い方は、車の運転はさけるべきです。心臓に異常がなくても、人間は起立すると、誰でも血圧が下がります。そうしますと脳の血流量が下がりますが、直ちに脳の延髄と言うところから、心臓に命令し、たくさん血液を送るよう命令します。そうすることによって失神しない仕掛けになっているのです。だいたい普通の人で血圧が80位になりますとフラフラが始まります。
 ここで、気を付ける必要があります。失神は突然やってくるのではなくたいていの場合、まえぶれの状態いわゆる前駆症状があります。体がだるい、耳鳴りがする、肩が凝る、後頭部が痛い、目が痛い、立ち眩みがする、あくびがでる、目の前が一瞬暗くなる等です。皆さん、その様な場合、直ちに車を止めて避難しましょう。

 ここで強調して申し上げたいことは、高齢者の方は食後直後は車の運転はしない、また若い方でもストレスの強い人、睡眠不足の場合、咳の症状の強い方、妊娠されているご婦人、貧血症状のある方、またその治療中の方などは失神を起こす可能性があるのです。また、薬を内服している方では、抗欝薬、抗圧剤、利尿薬を服薬している方も注意が必要です。

 失神ではありませんが意識を消失する可能性がある病気として、糖尿病、肝硬変、呼吸障害、ヒステリー、過換気症候群、また突然やってくる脳卒中、心筋梗塞、特発性気胸などはいうまでもありません。


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