世間の風評で判断 嫌い − TBSアナウンサー 林 美雄さん

TBSアナウンサー 林 美雄(はやしよしお)さん − 02年7月13日死去 58歳

大学紛争が下火となった70年代、若者は”居場所”をなくしていた。
マンガを読むと怒られ、テレビを見ていると「勉強しろ」と
居間を追い出された彼らが見つけた「もう一つの別の広場」はラジオだった。

深夜、ラジオにイヤホンをつなぐと、
パーソナリティーが友人、仲間、そして相談相手になった。

林さんは深夜放送「パック・イン・ミュージック」が始まった67年に入社。
70年、病気で降板した同期・久米 宏さんに代わり
10年にわたり「パック」のパーソナリティーを務めた。

愛称は、当時の住所から取った「下落合のミドリブタ」。

情報誌も情報番組もない時代に、音楽や映画などサブカルチャーを取材、紹介し、
全国のリスナーから熱狂的な支持を受けた。

当時は構成作家やスタッフなどいない。
林さんは映画やコンサート会場に頻繁に足を運び、仕事のほとんどを番組の構成に費やした。

石川セリが歌った藤田敏八監督「八月の濡れた砂」の主題歌や
デビュー前の美大生だった荒井(松任谷)由実の曲を何周もかけ続けた。
当時は無名のタモリ、おすぎとピーコ、山崎ハコなど、
これはと思った映画や歌手、文化人を次々と取り上げた。

80年、林さんはパック最終回で
「僕が学んだことは、レッテルとか世間のある風評で物事を判断してはいけないということです」
と語っている。

自分の目で見ることの大切さを伝えたかったのだろう。

当時の若者は今、30代後半から50代になっているはず。
背伸びして聴いていた私も、少なからず林さんの影響を受けている事を実感する。

誕生日の先月25日は、かつて
「夏にもクリスマスがあってもいいじゃないか」と呼びかけた「サマークリスマス」だった。

久しぶりに”仲間”が集まり、明るく林さんを送った。
今月1日深夜には追悼番組も放送された。

【学芸部・油井雅和】

2002年(平成14年)9月10日(火曜日)毎日新聞

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