胃食道逆流症(GERD)

 胸やけや胸痛はよく見られる症状で、15〜20%の方に認められたとの調査報告があります。このような場合、内視鏡検査を行い食道の下部にただれなどの食道炎の所見があれば、食道内に胃酸が逆流するために生じた逆流性食道炎と診断していました。しかし30〜40%の割合で異常が認められないため、最近では食道炎の有無に関わらず食道内への胃酸などの胃内容物逆流による症状があれば胃食道逆流症GERDgastroesophageal reflux diseaseの略)と呼ぶようになりました。高齢者の増加、食生活の欧米化により今後さらに患者数が増加することが予想されます。ピロリ菌の除菌治療後には胃酸の分泌能が改善するため、患者数の増加をさらに助長する可能性が指摘されていましたが、最近の報告ではその可能性は低いとされています。

 1.症状 

 胸やけは最も一般的ですが、それ以外にも狭心症様の胸痛、喘息様症状、咽頭痛、嗄声、耳痛など症状は多彩です。そのため、耳鼻科や呼吸器科などを受診したり、また消化器科を受診していても診断が遅れることがあります。医師もたえず念頭に置き、患者さんも自覚している症状をすべて医師に話すことが大切です。

 2.原因 

 食道と胃の境界部にある下部食道括約筋(LES)は弁の働きを有しており、胃の内容物が食道内に逆流しないような仕組みになっています。健康な方でも食事摂取時には嚥下運動とともに一過性にLESが弛緩して食べ物が胃の中に入りますが、GERDでは胃の伸展刺激や胃からの排泄遅延が加わることでこの一過性LES弛緩現象の頻度が多くなり、症状が出現すると考えられています。

 3.検査方法 

 内視鏡検査は必ず必要で、食道に炎症があればGERDの1つである逆流性食道炎と診断できますが、すべてに炎症所見が認められるわけではありません。この場合胃内容物の逆流を証明する方法として最も有効なのは食道内pHモニタリングですが簡単な方法ではないため、症状のある方に次に述べる治療を行い効果があればGERDと診断するのが現実的です。他に同じような症状を起こす病気がないことを確認しておくことも必要です。

 4.治療方法(内服治療を中心に) 

 ライフスタイルの改善と胃酸分泌抑制剤の内服を中心とした内科治療が基本で、これで効果がなく症状が強い場合には手術を考慮します。ライフスタイルの改善については次に述べますので、ここでは内服治療について解説します。
 最も強力で効果が高い薬はプロトンポンプ阻害剤(PPI)で、次がH受容体拮抗剤と消化管運動改善剤(シサプリドなど)です。PPIはほぼ1日中胃酸の分泌を抑制し、しかも食後の胃酸逆流も抑制するため最もよく使用されます。治療のスケジュールとしては、弱い薬から徐々に強い薬に切り替えるstep-up therapyと、最初に強力なPPIを使用して徐々に弱い薬に切り替えるstep-down therapyの2つがあり、step-down therapyの方が治療期間が短くてすみますが、現在はstep-up therapyが主流です。いずれにしても、症状が改善後もしばらくの間は維持治療が必要です。 

 5.ライフスタイルの改善 

 ライフスタイルの改善が最も大切であり 一生続けていくのが理想です。なぜなら、改善がなければ治療にも限界があり、また内服中止後に再発する危険性があるからです。
・肥満や便秘は腹圧を上昇させ、逆流を起こしやすくします。同様にベルトやコルセットを強く締め付けると腹圧が上昇するので、ゆるめにしてください。
・胃を圧迫するような前屈み姿勢は逆流を起こすため、長時間にわたる前屈みでの作業は控えてください。
・横になると胸やけがする場合には、枕や座布団で上半身を高くしてください。また食後2時間ほどは横にならない方がよいでしょう。
・食べ過ぎ、早食い、夜食は控えてください。
・アルコールはLESを弛緩させます。特に、ビールやシャンパンは胃の中で炭酸ガスが発生して胃を膨らませるため、控えてください。
・脂肪の多い食事、香辛料、コーヒー、たまねぎ、かぼちゃ、さつまいも、トマト、チョコレート、ケーキ、甘味和菓子は胸やけを起こしやすく、控えたほうがよいと思います。それ以外でも個人差があるため、食べて胸やけを起こしたものは避けてください。
・高血圧治療薬のCa拮抗剤や喘息治療薬のテオフィリンは逆流を起こすことがあります。これらの薬を飲んで症状が出たり、強くなった場合には医師に相談してください。

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