過敏性腸症候群(IBS)

 1.過敏性腸症候群とは 

 腹痛や腹部不快感などの腹部症状、および下痢や便秘などの便通異常が慢性的に経過する病気で、10人に1〜2人の方が悩んでいると言われています。若い方特に女性に多い現代病の1つで、生活や仕事に支障を来すことも多く、最近特に注目されています。ストレスにより、腸管運動の異常や脳・腸管の知覚過敏が生じることが原因とされています。つまり、ストレスが大きく関与していると考えられています。どの腹部症状が優位かにより、下痢型、便秘型、下痢便秘交替型、腹痛型、腹部膨満感型、腹部症状不安型に分類されますが、約半数が下痢便秘交替型です。

 2.症状と診断方法 

【診断基準 ローマU分類】  一部表現を変更しています
  a)腸管に明らかな病気がない
  b)腹痛、腹部不快感などの腹部症状が1年間のうちの連続とは限らない12週間以上を占める
  c)症状が排便により軽快する
  d)排便頻度の変化で始まる
  e)便性状の変化で始まる
 a)およびb)に、c)、d)、e)のうちの2項目以上があれば過敏性腸症候群と診断されます。排便頻度の変化とは、1日に3回より多い排便や1週間に3回未満の排便などです。便性状の変化とは、硬便、兎糞状便、軟便、水様便などのことです。
 腸管に他の病気がないことが診断に重要となるため、患者さんが初めて来院した際には、一般的な血液検査、炎症反応、便潜血反応、腹部単純X線検査などを行い、異常がないことを確かめておきます。発熱、体重減少、貧血などがある方や50歳以上の高齢者では、さらに大腸内視鏡検査などの精密検査を行う必要があります。

 3.治療方法

 病気の説明、生活指導(十分な睡眠と規則正しい食生活)、食事指導(暴飲暴食を避ける、適量の食物繊維の摂取)、薬物治療、心理療法が中心となりますが、過敏性腸症候群とはどのような病気なのかを患者さんに十分説明することからスタートします。十分な説明により、病気への不安感を和らげるとともに、医師と患者間の信頼関係を築くことができます。
 その後の治療は重症度により3段階ありますが、第1段階から治療を開始して、その効果がなければ次の段階に進みます。生活・食事指導はすべての段階において共通です。まず第1段階では高分子重合体(ポリカルボフィル:便の量を増やす薬)や消化管運動調節薬(トリメブチンなど)を使用しますが、優位な症状により乳酸菌製剤、下剤、止瀉薬(下痢止め)、抗コリン薬(チキジウム、メペンゾラートなど)などを追加します。第1段階の治療を4〜8週間続けても効果がなければ、次の第2段階では強めの止瀉薬(ロペラミド)、抗うつ薬(スルピリドなど)、抗不安薬(アルプラゾラム、エチゾラムなど)を追加します。これでも効果がない場合には、第3段階では消化器や心療内科の専門医による治療を受けることになります。最近では桂枝加芍薬湯などの漢方による薬物治療も検討されています。

 4.キーポイント

・症状からこの病気を疑い、他の病気がなければ過敏性腸症候群と診断されます。つまり、主に症状により診断され、特別な検査方法はありません。
・ストレスが病気の発生に大きく関与し、またストレスが症状を悪化させます。規則正しい生活習慣が大切です。
・生活や仕事への支障により、患者さんは強い不安感を持っています。医師は十分に病気の説明を行い、患者さんとの信頼関係を築くことが大切です。患者さんのライフスタイルを頭から否定せず、親身になって話に耳を傾ける姿勢が必要です。一方、患者さんは医師にどんなことでも相談するように心がけてください。
・第1段階の治療で効果がない場合には、他に病気がないかどうかを確認するために精密検査を行う必要があります。
・段階的に治療を行いますが、治療効果が現れるには最低でも2週間以上の時間が必要です。

 5.その他の事項

 この病気は青年期に多く、年齢とともに少なくなります。しかし、老年期には同じような症状の方が増えてきます。高齢者では大腸憩室症(大腸に袋状の突起が多発する病気)を伴っていることが多く、大腸憩室症は過敏性腸症候群の終末像とも言われています。また、クローン病などの炎症性腸疾患を引き起こす可能性も示唆されています。

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