出血性潰瘍に対する緊急内視鏡による止血術

 胃潰瘍や十二指腸潰瘍では合併症として出血を伴うことがあります。潰瘍の所の血管が破れるのが原因ですが、出血量が多量になると生命に危険が生じます。この場合、昔は緊急手術が行われていましたが、現在では内視鏡(胃カメラ)による止血法が発達普及し、その止血率はいずれも90%以上と良好で、緊急手術の必要性はほとんどなくなりました。

一般的な注意事項

1)出血が疑われる場合には、ショック状態を改善した後に必ず緊急内視鏡検査を行い、潰瘍や出血の状態を確認します。
2)止血処置の必要な例は、活動性出血があるもの、露出血管を有するもの(潰瘍内の血管が突出あるいは赤色を呈している)、凝血塊付着例などです。
3)浅い潰瘍では血管の側壁が破れるため、血管周囲と血管そのものの両方に処置が必要です。深い潰瘍では比較的太い血管が断裂しているため、血管そのものの確実な処置が重要です。
4)位置的に処置が困難な場合には、内視鏡の種類(前方視鏡→側方視鏡)や体位を変更したり、透明フードを使用すると、処置が容易になります。
5)1つの方法で効果が不十分と思われる時は、別の方法を併用します。
6)初回の処置が不十分の場合にはその数時間後に再度試み、なるべく早く止血を確実にします(second look法)。
7)処置翌日には必ず再度内視鏡検査を行い、露出血管が消失するまで処置を追加します。
8)露出血管が消失すれば、食事が可能になります。
9)2mm以上の露出血管例、再出血を繰り返す例、高齢者、重い合併症(高血圧、糖尿病、慢性肺疾患など)を有する例などでは止血が難しいため、Interventional Radiology(IVR)か手術を考慮します。

止血術の種類と特徴

 止血術は大きく、薬剤散布法、局注法、凝固法、クリップ法の4つに分けられます。一般的に広く普及し比較的簡単にできる方法は太字にしています。青字のものは当院で採用しているものですが、現在では無水エタノール局注法かクリップ法、およびその併用を第一選択にしています。

薬剤散布法

 0.1%ボスミン液(例 エピネフリン0.2mg+生理食塩水20ml)、トロンビン、アルト(アルギン酸ナトリウム)などの止血剤を出血部に散布する方法です。急性胃粘膜病変や生検(細胞の採取)後の出血に有効ですが、露出血管例には無効です。

局注法(薬剤を直接組織内に注入し止血する方法、局注針以外特別な機器は不要) 

 無水エタノール
 99.5%エタノールの強力な脱水固定作用 により血管が収縮、さらに血管内に血栓が形成されて止血します。露出血管周囲1〜2mmの3〜4ヵ所に0.1〜0.2mlずつ注入し、血管が白色に変化した時点で終了します。1回の注入量は1〜2ml以下、合計の注入量もなるべく少なくします。注入量が多くなると潰瘍が拡大することがあり、注意が必要です。

露出血管  大きな露出血管を伴った潰瘍があります。検査時に出血はありませんでしたが、何らかの方法で露出血管をなくしておかないと、再出血します。
エタノール局注法  露出血管周囲にエタノールを注入し、露出血管をなくしました。この症例では、露出血管内に少しエタノールが入ってしまったため、潰瘍周囲に色調の変化などが見られます。この場合には、潰瘍の拡大に伴う出血が出現することがあるため、注意が必要です。

 HSE(高張ナトリウム・エピネフリン)
 エピネフリンの血管収縮作用、高張食塩水によるエピネフリン薬理作用の延長と組織膨化、血管内の血栓形成により止血します。露出血管周囲3〜4ヵ所に1〜2mlずつ注入します。組織傷害はエタノールよりも少なく、安全に使用できます。当院では、エピネフリン1mg+補正用Nacl19ml(濃度約5.8%)のものを使用しています。

 ☆フィブリン接着剤
 フィブリンそのものの止血作用と圧迫作用により止血します。適応は広く組織傷害も少なく、治癒は良好です。まずA液1mを注入、その後B液1mlを追加注入、さらに生理食塩水1mlでB液を送り込み、生理食塩水を入れながら針を抜去するサンドイッチ法が便利です。

 ☆エトキシスクレロール
 食道静脈瘤の硬化療法に使用される薬剤で、血流の低下をもたらします。露出血管周囲5mmの3〜4ヵ所に1.5〜2mlを注入し、その後エタノール0.2mlを追加注入します。

凝固法(血管そのものを凝固し止血する方法)

 ☆ヒータープローブ
 熱凝固により止血します。専用の機器が必要で内視鏡もやや太くなりますが、安全に使用でき、接線方向での処置も可能です。潰瘍部の血液を取り除く、プローブを当てる際には呼吸をしっかり止める、血管に接するように軽く押し当て順次少しずつ移動させて焼却することが重要です。胃潰瘍では25〜30J、十二指腸潰瘍では20Jで約10回焼却を目安として、血管が平坦化すれば終了します。

 ☆マイクロ波
 安全、特別な機器が不要で安価、あらゆる出血に有効などの特徴があります。出血部を正面視し、まず周囲から凝固し最後に出血点を凝固します。焼きすぎると広い潰瘍を形成することがあり、注意が必要です。

 ☆高周波
 接線方向での処置が可能です。単極凝固子と双極凝固子がありますが、双極凝固子が主流です。4端子凝固子(凝固子には3.4mmと2.3mmの2種類があり、UES-10の目盛り2.0程度)を用いて、出血点を押さえ込むように1回約3秒間通電します。同一部位での操作は2〜3度までとしますが、潰瘍の拡大は少ないようです。

 ☆YAGレーザー
 機器が高価な点が問題です。血液を除去後、血管の根元から照射し最後に中心部に照射します。

 ☆アルゴンプラズマ凝固(APC)
 広く浅い出血に対して有効ですが、露出血管例には止血効果は不十分です。電離アルゴンガスにより発生したアルゴンプラズマによって凝固止血します。 

クリップ法(血管をクリップで直接把持し止血する方法)

 血管を直接把持するため、組織損傷が最も少なく安全確実な方法です。露出血管を認める、クリップで把持できる部位にある、組織があまり硬くないことが条件となります。ポリープ切除や粘膜切除後の止血、縫合にも有効です。病変が接線方向になる場合には、透明フードを利用すると正面視ができるようになります。クリップにはいくつかの大きさのものがあります。軟らかい場所ではクリップを大きく開いて広く把持し、硬い場所ではクリップを強く押し出して深部で把持するように心がけます。  

露出血管  少量の出血を伴った露出血管があります。Dieulafoy潰瘍に似た形をしていますが、粘膜下腫瘍のようにも見えます。
クリップ法  2本のクリップを用いて、露出血管のクリッピングを行いました。クリップの多くはいずれ自然に脱落し、便とともに排泄されます。まれに長期にわたって残ることがありますが、ほとんど問題はありません。

presented by Kagajo

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