かたくなまでに変らぬ教育現場のエイズ教育

TOSS愛媛 戸井 和彦

1エイズ教育を取り巻く現状

 エイズ感染者、患者は急激に増えつつある。
「今世紀中にエイズで1億人が死ぬ。」この不気味な予測を1986年にした人がいる。米国公衆衛生総局の主席医エベレット・クー博士である。米国におけるエイズ対策の総元締めである。

さらに、彼は言う。

 エイズの治療法やワクチンが完成する見込みがない今、考えられるのは教育だけ。エイズ教育は、なるべく早く小学3年生からでもよい。その際、コンドームの使い方も・・・

 日本でもエイズ患者が増えるにつれて、パニックに近い状態となった。
 エイズは恐れられ、その患者や家族に対する差別や偏見がひどくなっていった。
 「エイズはどのようにしてうつるのか。」「エイズにならないためにはどうすればいいのか。」ということが教育の中心となっていった。
 そういった教育はエイズ感染予防教育にすぎず、実際にエイズ患者や感染者がいることを無視したものであった。
 そんな中、血液製剤(非加熱製剤)による血友病患者へのエイズ感染の事実が明らかになり、国や製薬会社の責任が明確化された。

現在までのエイズ教育では、感染予防面ではある程度の効果があった。どうすればうつらないかを知識として得ることができた。
しかし、差別や偏見除去にはつながらなかった。
それは、なぜか。
結局、エイズ患者や感染者抜きのエイズ教育に過ぎなかったからである。他人のこととして考えていたに過ぎなかったからである。

武田敏氏は言う。

 従来の展開法は、「エイズとはどんな病気か」「エイズを防ぐにはどうすればいいのか。」「患者、感染者の人権を尊重しましょう。」の3段階ですすめるものでした。
 しかし、実際には第1と第2にウェイトがかかり、第3がつけたしのようになったり、第2が強調され過剰防衛を招いて、情緒的に患者、感染者を回避する結果となりました。

  ある授業参観から

 先日、ある学校で3年生のエイズの授業を参加した。
 病気をたくさん出させたあとで、エイズを出し、エイズは「血液でうつる」「エイズにうつらないためにはどうすればいいのか」ということを教師の説明やクイズなどで繰り返し扱っていた。

 最後に子どもに書かせた感想の中から「エイズはとてもこわいので、うつらないように気をつけたいと思います。」というのが出された。
 授業後の研究協議の場で、ある先生が質問した。「実際にエイズ患者がいる場合には、どのような授業をするのか。」と。
 授業者は答えた。

知識をたくさん与えていくと、怖いという偏見はなくなる。

 私はそれを聞いて、唖然となった。
 エイズ教育に意欲的に取り組んでいる教師から出た言葉である。いくら、正しい知識を多く与えていっても、「怖い」という偏見はなくはならない。

 5年程前、6年生に「エイズは握手でうつるか。」というクイズを出したことがある。エイズウィルスは弱く、主に血液や精液でうつることを押さえていたので、全員が正解であった。その後、たずねた。

エイズ患者が教室内にいたら、その人と本当に握手ができますか。正直に答えてごらん。

 「できる」と答えたのは、数名だけであった。「できない」という理由でいちばん多かったのは、「うつらないと分かっていても、やはり、こわい。」というものであった。
 これがほとんどの子どもたちの実情である。知識だけでは、偏見を取り除くことはできない。逆に強めてしまうことにすらなる。
「エイズ患者、感染者との共生」に視点をあてた授業を、知識伝達と同時に進めるべきなのだ。