自作スピーカー・ギャラリー


10cm口径フルレンジ編 その10

同じ強力オーバーダンピング・タイプのフルレンジを使用した場合でも、 一般にバックロード・ホーン(以下BH)は低音域も含めて力強く張り 出してくるサウンド、共鳴管スピーカーでは低音域のエネルギーは薄め だがスカッとヌケが良い開放的なサウンドと、ハイスピード・サウンド ということでは共通していても、聴感上では割と分かりやすい違いが ある。
ずっと以前に製作した上面開口の共鳴管スピー カー「F-2400」では、たしかに上記の特徴がフルに発揮され て音の微粒子が部屋中に散乱する様子をよく感じとることができた。 しかし、その後製作した前面開口タイプの共鳴 管スピーカー「P-1602」では、 共鳴管スピーカーの「F-2400」よりも 「BH-1603S」のような前面開口のBHに近い感じのサウンドで 低音域にも力強さがあった。
そこで思ったのは、単なる共鳴管とBHといった方式の差と同等もしくは それ以上に、ユニットからの直接音と開口部から出てくる余計な中高音の 干渉が、スピーカーのサウンドに大きく反映されるのではないかというこ とだ。

BHにしろ共鳴管にしろ、ユニットから直接放射される中高音とホーン開口 からの低音のメカニカルな2ウェイスピーカーだともとれる。開口からはあま り聴こえて欲しくない中高音も漏れてきて、それがユニットからの直接音と 相互に干渉し、中高音の透明感や低音の歯切れの良さを損ねてしまう。
この余計な中高音の漏れの影響を極力少なくしていけば、ユニットから直接 出ている中高音も開口から出る低音もより純度が上がるのではないか。 上面開口の共鳴管スピーカーのヌケの良さにはそういったことが少なからず 影響しているのではないかと思うのである。

BHであってもスワンのように背面に 開口を持ってくれば、上記の相互干渉の問題は簡単に解決するようにも思え るが、一般的なリスニング・ルームで普通のスピーカーと同様のセッティン グでスワンを鳴らすと、開口からの音がスピーカー背後の壁に強く反射した 後に耳に届くことで、特に低音域でダブついた音になりやすい。
もっとも、強力なユニットを使用することで、干渉も反射の影響もふっ飛ば してしまうくらいのスピード感を出すことができるのは、これまでの経験で 分かっている。
では、その強力なユニットを使用し干渉と反射の影響も極力抑えたキャビネッ トとすることで、どのくらいユニット本来の音を損なわずにBHサウンドを 楽しめるのか。これまで、強力なオーバーダンピング・フルレンジを想定した 上面開口のBHはほとんどお目にしたことがなかったのだが、そんなわけで 今回はそれに挑戦してみることにした。



BH-1025S

この機種は、わたしの設計

ホーン開口が上面にあるため共鳴管スピーカーのようにも見える が、トールボーイのBHである。
全高は1224mm。平均的な天井高を2.4m前後とすると、開口と天井は 1.2m程度離れているので反射の影響はかなり抑えることができる。
しかし、これだと肝心の低音まで聴こえなくなってしまうのでは ないかとの心配もあるかもしれない。だが、低音は周波数が低く なるほど開口から全方向に広がっていく傾向が強くなるので、容 易に耳に届く。

寸胴の柱状キャビネットに10cmフルレンジが1発だけという野暮な ルックスにはしたくないということが最初にあったので、ユニッ トを取り付けるヘッドとスロート部が前に出ている構造とした。 バッフルは17cm角と十分に小さくとり、音像のフォーカス感の 向上や広い音場の再生も狙う。
設置スペースは横28cmX奥行き32cm。市販スピーカーなら20cmウー ハーの2ウェイ・システムが置ける程度のスペースだろうか。
フルレンジ・ユニットの高さは約65cmとちょっと低めだが、ヘッド の天板にツイーターを載せると中心が75cm程度になるので、ソフ ァーや座椅子にゆったり座って音楽や映画を楽しむにはちょうど 良いのではないかと思う。



サブロク合板3枚をほぼ使い切って左右2本分のキャビネットを 作る。板厚は12mm。 せっかく強力ユニットを使って大型キャビネットを作るのだから もう少し厚い15mmやもっと厚い18mmの板にすれば良いのに、と思う 向きもあるかもれない。
これは、共鳴管スピーカー「F-2400」 の時に得た教訓だが、「F-2400」では厚さ12mmの合板でありな がら共振音など微塵も感じられなかった。
しかし、「F-2400」のような細長いキャビネットでは、内容積の 大きさの割りに表面積が大きくなるので、共振音の影響も比較的 多く出てくるはずだ。
影響が感じられなかった理由として、共振しても板が薄い(体積が 小さい)ために蓄積される振動エネルギーも小さく、ごく短時間で 減衰してしまっているからではないかと推測する。
余計な共振音が尾を引かないので、ユニットからの直接音を濁す 度合いが小さく、その結果、歯切れよく爽やかに部屋中の空気を 一変させるだけのスピード感が得られていたのではないか、という わけだ。
逆に、必要以上に厚い板で作ったスピーカーの音は、現実音よりも 密度感が高く濃厚で、スピーカー自身が存在を強く主張する傾向が 大きくなっているのではないだろうか。
もっとも、「何でも薄ければいい」「何でも厚ければいい」と言う ことではなくて、狙いの音質によって板厚の選択も変わってくると いうこと。「板厚も設計のうち」なのである。
「F-2400」と同様にトールボーイの本機でも、内容積の割りに表面 積が広くなることで箱鳴りが耳につきやすくなることを踏まえ、 箱鳴りの元となる振動エネルギーを蓄積しにくい薄めの板とした。


W = 280  H = 1224  D = 320  (mm)

設計図・板取り図をご覧になりたい方は、こちらから。




【告知】
( 2011/12/1 up )

本機の16センチ版の大型バックロード

BH-1616S・BH-1617ES・BH-1618S のページをアップしました。


16センチ口径フルレンジ編 その6

          

    組立の様子


補強材も利用して、ホーンは約30cm毎に
段階的に広がっていく。

上部の2区画はデッド・スペース
なので吸音材を詰める。


ヘッドとスロート部。十分に補強。
底板のホーンの折返し部に、吸音材を貼っておく。




測定と試聴、エージング

今回ユニットには手持ちの往年の限定ユニットFE108Sを取り付けた。 (新型限定ユニット FE103En-S もそのまま使える。) BHの場合、完成直後は歪っぽくボーボーと付帯音がまとわり付いて ほめられた音ではないことが多いが、今回はホーン開口から出てく る刺激的な中高音が耳に届きにくいためか、鳴らし始めから意外な 透明感と繊細感がある。とは言ってもやはり鳴らし始めのBHの 音はぎこちない。十分に音がこなれてくるには数ヶ月程度は必要 だから、腰を据えて鳴らしこむこともBHを使いこなす上で重要な ことだ。



FE108Sのみ(ツイーターなし)、キャビネットの背後の壁から15cm程度、 部屋のコーナーから1m程度離し、通常のセッティングを想定した状態で マイクとの距離2mで周波数を測定してみたのが上の画像。 BHなので低域の音圧レベルが中高域と同等、というか、 こちらのページのスワンその 他の周波数特性と比較してみると、本機が10cm版のBHとしては 重低音から下の帯域の音圧レベルがかなり高いのが分かると思う。 まるでサブ・ウーハーを追加したかのような特性だ。

本機のホーン長は約290cmでスーパースワンよりも40cm程度長いの だが、ホーンの実効容積が大きくなりすぎると音がふやけてしまう ため、広がり率を抑えてトータルではスーパースワンと同等の容積 としてある。よって特に大型のキャビネットというわけでもない から、この低音の伸びと量感はやはり不思議だ。

ホーンは広がり率を大きくとると放射効率は良くなるが、下の帯域では ホーンが効きにくくなるということがあるので、本機ではやや広がり 率を抑えたことで重低音域でのホーンの効きが良くなったのか、 約30cmごとにこまめにホーンを広げていったのでホーンの効きが良く なったのか、はたまたユニットが古くなって振動系のサスペンション が緩み低域のレベルが上がってしまったのか、などなどいろいろ考え られる。ユニットを新品に取り替えてみれば、答えが見えてくるかも しれない。



半年あまり鳴らしこんだ感じでは、共鳴管スピーカーにも似たスカッと したヌケの良さがあり、極小バッフルの効果で音像はクッキリ。低 音と中高域が分離して音像が縦伸びしてしまうこともなく、スピー カーの外側まで音が広がり、ソフトに含まれていれば前後方向の奥 行きや高さもよく出て、音場の広いソフトだと部屋中の空気が音で 充満する感じがよく分かる。さらに、上面にあるホーン開口から放射 されている中高音は壁や天井に弱く反射して、若干の音場創生効果を 発揮しているようだ。

ユニットからの直接音とホーン開口からの漏れの干渉が少ないせいか、 弦楽合奏であればセカンド・バイオリンやビオラ、混声合唱ならアル トやテナーといった、ともすればメロディー・ラインやベースの影に 隠れがちになる内声部の細かな動きや重なりが、これまでにFE108S用 に設計・製作した他のBHよりもよく聴こえてくるが、決してチグハ グな感じに分離してしまうなんてこともない。

予想以上に伸びた低域も存分に威力を発揮して、コントラバス・マリ ンバの重低音も、パイプオルガンの風圧も、SF映画の地鳴りや爆発音 も、とても10cmBHとは思えないような鼓膜を圧迫するような音がモ リモリ出てくる。
音が散乱し低域のレンジが広くキャビネットがトールボーイ・タイプ なので80インチくらいまでの大画面映像とのマッチングも良さそうだ。 ただし10cmは10cm。20cmユニット並みの超大音量再生を狙うと、ユニッ トを壊してしまうので注意は必要。
あくまでも音質を最優先して設計したスピーカーなので音楽再生での クオリティは十分に高いが、本領を発揮させるには力がありクオリティ の高いアンプ(できればピュア・オーディオ専用アンプ)で鳴らしたい。






これまでにAVアンプを含む数種類のアンプで鳴らしてみたが、ユニッ トがFE108Sの場合、アンプやソフトの音質のちょっとした差まで非常 に良く出してくる。これはFE108Sの最大の特徴であり、だからこそ かつて長岡鉄男氏がオーディオ機器の超シビアな音質テストにFE108Sを 付けたスーパースワンを使っていたわけだが、さすがに一般のリスナー には差が出過ぎてちょっと疲れる感じもある。「違いを楽しむ」ことを 良しとしない人たちにとっては、かなりつらいユニットだとも言える だろう。今の時点では「時代おくれ」と言われてもしかたない。

とは言っても、本機BH-1025Sではスーパースワンのような低音質ソフト や低音質志向リスナーを斬って捨てるような冷徹さはなく、もう少し 様々な音質のソフトを許容する、大らかさのある音となっている。
スーパースワンの最大の特徴は、音質劣化をもたらすネットワーク素子 を必要としないハイスピード・フルレンジが、極小バッフルに取り付け られ宙吊りに近い状態で空間に孤立し、振動板から出る直接音の純度が 微小信号域まで極めて高いレベルで保たれていることによって、もたら されているからだ。
本機もバッフルが17p角とスーパースワンの16p角に準じる小ささで、 ユニットからの直接音がホーン開口からの音によって揺さぶられること がほとんどないため、音像は小さくその位置が非常に安定しているが、 ユニットが宙吊りであるか否かによって、割と音に違いが現れるようだ。

BH-1025Sでは、ワンポイント・マイクやペア・マイクでの超シンプルな ステレオ録音のソフトに対しては、ユニットとホーン開口の干渉の少な さが発揮されることで、十分にシンプル録音の良さが感じられる透明度 が高く広い音場が再現され、モノラル音源を巧みに組み合わせて電気的 な操作で音場を作り上げる大抵の音楽ソフトや映画サウンドでは、上面 のホーン開口による音場創生効果もモノを言って、音がやせることなく 厚みのある音場が広がる。
ホーン開口が上面にあっても決してホーン開口に音像が引っ張られる ことはなく、ユニットの位置を基準にしたあたかもコンパクト・スピー カーのような自然な音場が得られるが、コンパクト・スピーカーとは ダイナミック・レンジ、聴感上の周波数レンジの広さ、微小信号の再現 性などで大きな差を付ける。


また、上の2つの画像のようにツイーターの有無でルックス的な印象が 変わってくる。FE108Sの場合、サウンド的にはスーパー・ツイーターの 必要性はほとんど感じられなかったのだが、下の帯域がよく伸びている ので40kHzあたりまでハイエンドが延びているスーパー・ツイーターに よるワイドレンジ化は効果的だろう。
たとえば、現行のフルレンジ・ユニットでは、FE108Sよりもずっと聴き やすい音になったFE108EΣが使えるが、その場合ツイーターにクオリ ティの面でバランスの良いFT96Hあたりを0.47マイクロF程度のコンデ ンサーでローカットして追加。SACDやブルレイ・ディスクに対応させて みると良いと思う。より広いジャンルのソフトに対応できるようになる だろう。

本機のような上面開口キャビネットもCW型やスワン型など他のBHキャビ ネット方式と同様に、オーバーダンピング・タイプのハイスピード・フル レンジならどれでも使える方式だが、振動板の直接音と開口からの放射音 との干渉を減らすことで、振動板から出ているユニット自体の音質・音色 がより純粋に引き出しやすくなる方式なので、独自の振動板素材と磁気回 路で他とは一線を画するサウンドを狙ったFE138ES-RやFE208ES-Rなどの魅 力を引き出すのにも向いているんじゃないかと思う。その場合のキャビネッ トの板厚はFE138ES-Rで15mm、FE208ES-Rだと18mmあたりだろうか。

また、あまり必要ないとは思うが、本機にサブ・ウーハーを追加する場合 には、低域ダラ下がりの共鳴管スピーカーに比べてサブ・ウーハーとの クロス・オーバー(かぶる)帯域をかなり少なくできることでも、フルレ ンジ・ユニット本来の音を損ないにくいというメリットも考えられる。 その反面、サブ・ウーハーのハイカットに急峻な特性のフィルターが必要 となる点が多少やっかいである。
ダクトのチューニングを低くとったバスレフ箱のサブ・ウーハーと電子式 の-24dB/oct程度のフィルターを組み合わせサブ・ウーハー用のアンプを 別途用意して鳴らすとか、およそ-12dB/octのアコースティック・フィル ターとしてはたらくASW方式キャビネットのサブ・ウーハーと適当な容量 のコイル(-6dB/oct)を組み合わせて鳴らすとかだが、後者の場合には、 サブ・ウーハー用のアンプを用意しなくても、メイン・スピーカーと並列 に接続して鳴らすことができる。


2008/12/12 up


「10cm口径フルレンジ編 その11」
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