自作スピーカー・ギャラリー
10cm口径フルレンジ編 その11
もう20年以上も前のことになる。長岡鉄男氏設計の初代「スワン」を
使い始めた頃は、2本のスピーカーだけで再生できる広い音場と明確
な音像に満足していた。
しかし、Beta-hifiのビデオデッキ(リニア・スケーティング・メカに
惹かれて買った SONY SL-HF705)を手に入れ、サラウンド再生の効果を
謳うオーディオ誌の記事を読んでいると、自分でもサラウンドをやって
みたくなった。
当時すでに電子回路(DSP)を用いて残響を付加するサラウンド機器も
市場に出ていたのだが、サラウンド・デコーダーのほかに4本のスピー
カーと4ch分のパワーアンプまで揃えるとなると、やはり高嶺の花。
現用のプリメイン・アンプ(たしかその当時はSONY TA-F555ESX だった、
と思う)をそのまま使用でき、小型のスピーカーを2本追加するだけで
十分な効果が得られるとされるマトリクス接続によるサラウンド再生を
やってみることにした。
狭い部屋にも置けるように、スワンと同じFE106狽取り付けた共鳴管ス
ピーカー(ネッシーを10センチ・ユニット用に超スリムにした、今だと
「ネッシーmini」といった感じ。)を作ってリスニング・ポジションの
左右に置いてみたが、映画再生には威力を発揮するものの、音楽再生には
リア・スピーカーの音圧が高すぎて、全体的に音像のフォーカス感が損な
われてしまい、いかにも余計な効果音。仕方がないので、リア・スピー
カーの結線の途中に抵抗を入れて、能率を下げることにした。
この抵抗の選択がやっかいで、手に入れ安いセメント抵抗では耳が痛くなる
くらいの歪感たっぷりの音になったため、酸化金属皮膜抵抗を何本も並列に
して使ってもみたが今度は音が鈍ってしまう。結局、ややメタリックな感じ
も残るものの、音のヌケが良く聴感上のダイナミック・レンジも広いホー
ロー抵抗に落ち着いた。
その結果、映画再生でも雰囲気たっぷりで、音楽再生でもフォーカス感や
透明感が犠牲になることなく、広大な音場が得られるようになった。ホントは
抵抗器なしで能率が合わせられれば言うことなしだが、能率差だけでなく
音色やスピード感を合わせることも重要であるため、ユニットの選定は難
しい。
普通に聴くだけではリア・スピーカーが鳴っていると意識させることなく、
いざリアを切ってしまうと途端に寂しくなる、というのがマトリクス・サ
ラウンドの極意なのだと気付いたわけだが、これは絶えることなく音が充満
している現実世界の状態と同じだとも言える。経験上での大体の目安だが、
メイン・スピーカーに対して、リア・スピーカーが相対的に6dB程度低い
状態で鳴っていると、そういった自然な効果が得られるようだ。
現在、わがやのオーディオ専用のシステムではメイン・スピーカーに
6N-FE168SS使用のBH-1605S、リア・スピー
カーに6N-FE88ES(キャンセリン
グ・マグネットによるハイ・スピード化で振動板素材固有の音色を低減)
使用のBH-0802ESを使っているが、左右の
リア・スピーカーを直列接続で使った場合、見掛け上の能率差は約6dBと
なり、メイン・スピーカーとリア・スピーカーのキャビネット形状や構造が
相似形に近いこともあって、抵抗器なしでとても自然な音場が得られている。
スピーカーにまつわる問題のほかにも、マトリクス・サラウンド効果が良
く出るアンプと出ないアンプもあるし(値段はあまり関係ない)、マトリ
クス再生してもちっとも音場が広がらないソフトだっていくらでもある
(アーティストには関係ない)ので、マトリクス・サラウンドは、様々な
要素の違いを趣味として楽しめる人でないと、向いていないのかもしれ
ない。
2chソフトに含まれている左右chの位相差や強弱差をリア・スピーカーで
抽出して音場の再現の補助をするマトリクス・サラウンドと、音の素材を
加工し音像の定位や移動をあらかじめすべてのスピーカーに割り振って創
り上げられている5.1chや7.1chのマルチ・チャンネル・サラウンドでは、
リスナーが音場を感じる仕組み自体が大きく異なっている。
最初の配線と設定の手間や時間さえ惜しまなければ、AVアンプでのマルチ・
チャンネル・サラウンドのほうが、初心者でも安心して楽しめるとも言える。
※ なお、マトリクス・サラウンドでは、必ずアンバランス出力のアンプを使わ
ないと、アンプが壊れて取り返しの付かないことになるので、絶対にバラン
ス出力のアンプでマトリクス・サラウンドを行ってはいけない。
BH-1026S (R-101)
この機種は、わたしの設計
今になって気になってきたのが、ホームシアターのリア・スピーカー。
これまでは、メイン・スピーカーの6N-FE168SS使用のバックロー
ド BH-1603Sに、FE108Sを取り付けた背面開口箱や共鳴管スピーカーを
組み合わせて鳴らしていた。何かしらの違和感を感じはしていたものの、スク
リーンの映像に意識が向かうとそれほど気にもならないようにも思っていた。
しかし、共鳴管スピーカー「ネッシー」のリア・スピーカーには同じく共鳴
管方式の「リアカノンII」が最適なのだとしたら、バックロード方式のメイ
ン・スピーカーにはやはりバックロード方式のリア・スピーカーが適してい
るのではないか。
部屋まで含めた組み合わせが大切なのであって、「どんな場合でも、リア
カノンIIが最高のリア・スピーカーだ!」なんてことはないはずだし、同じ
高能率でオーバー・ダンピング・タイプのフルレンジ・ユニットを使っても、
共鳴管とバックロードではその音の傾向に少なからず違いがあり、これを
無視するかしないかで、自ずと選択肢も変わってくる
ものと思う。
そんなこんなを考えているうちに、次第に違いが無視できなくなってきた
ため、今回バックロード方式のリア・スピーカーを新規に作ることにした。
床置きでユニットの高さ130センチを実現できる全高1412ミリのスリムな
トールボーイ・スピーカー。ホーン開口は上面にあるが、天井高2.4メート
ル内外の一般的な家屋ならホーン開口から天井まで1メートルとれるので、
反射音による音のボケも気にしなくて済む。
ホーンを底部で1回折り返しただけのシンプルな構造で、空気室の部分を
除くとホーン長は250センチあり、これはスーパースワンと同等。全体が
スリムでホーンの広がりも小さいこともあって、最初から低音の量感は狙
わないが、低域の周波数レンジは確保しておく。
板厚は、設計コンセプトに共通点が多いBH-1025Sと同じく12ミリ厚とした。サブロク合板2枚で2本のキャビ
ネットができ経済的でもある。本機はBH-1025Sよりも随分細いので12ミリ
厚でも強度は十分と判断。なお、ユニットを取り付けるバッフルは2枚重ね
で24ミリ厚となっている。
ホーンの広がり率が小さく折り返しが1回だけなので、バックロードというより
は共鳴管になるのではないかとも考えられるが、空気室とスロートの絞りが
あることに加え、共鳴管としてみると管の広がりが大きいため、共鳴管(全長
280センチの閉管)的動作が残っていたとしてもあまり強くはなく、これは
バックロードと共鳴管、両方の音を聴いたことがある人なら、音を聴いて
分かる違いではないだろうか。
また、スロートは空気室の水平断面に比べて6割程度まで絞られており、これ
はD-58ESあたりともそう変わらないので、空気室としての独立性は確保して
いると考えられる。
W = 184 H = 1412 D = 200 (mm)
設計図・板取り図をご覧になりたい方は、こちらから。
組立の様子
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左はキャビネットの後ろ半分、右は前半分。
下部のスリット状のデッド・スペースには
約2リットルの容量があり、砂や砂状鉛を
入れ、低重心化を図る。
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背面の様子。白いワタが詰まっている
ところが、デッド・スペースの開口部。
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ホーンの折返しにあたる底板には、吸音材を
貼った。キャビネットの大きさに比べて微々たる
量なので、思い切って、ここは吸音材ゼロでも
良いかもしれない。
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なぜか、パーツによって板の色が大きく異なって
いたため、そのままだとこんな感じ。今回は無塗
装でいくつもりだったので、これはツライ。
そこで、一番上の画像のように、バッフル下部には
全体と似た色の4ミリ厚のベニヤ板を貼り付けて
対処した。
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測定と試聴
メイン・スピーカーのユニットが純パルプ振動板の6N-FE168SSなの
で、今回ユニットには同じく純パルプ振動板のFE108Sを取り付けた。
(もちろん、新型の限定ユニット FE103En-S もマッチする。)
キャビネットの容量が小さくユニットにあまり負荷が掛かっていない
ためか、鳴らし始めから割とスッキリと明快な音がハイスピードに
飛び出してくる。
見た目は共鳴管スピーカーのようだが、音にはバックロードらしい
瞬発力とパンチがあり、ホーンを一回折り返しているだけのためか、
ユニットからの音がとてもストレートに引き出されてくるといった
感じ。マトリクス・サラウンド時のダイナミック・レンジやスピード
感、繊細感、透明感など、ほかではなかなか得がたいものがある。
F特[ 1 ] 
F特[ 2 ] 
通常のセッティングで想定される壁から約30センチ離した状態で周波数
測定をしてみたのがF特[ 1 ]。低域はなだらかなダラ下がりとなっているが
これは予想通り。マトリクス・サラウンドの場合には、リア・スピーカー
からしっかり低音が出ていると、メイン・スピーカーの低域と干渉して
低域が減衰して聴こえることも考えられるので、前後4本のスピーカーを
リスニング・ポジションから等距離で設置するなどして位相を合わせること
ができない場合には、リア・スピーカーの低域はこのくらいが良いと思う。
次にF特[ 2 ]は、数年前からAVアンプに搭載されることが多くなった測定
マイクを用いた補正機能によって低域を持ち上げることを想定して、プリ
メイン・アンプ(TA-F222ESJ)のトーン・コントロールを使って低域を6dB上
昇させた場合の特性。もし、ホーンが短いと、無い袖を振れなくなってしま
うわけで、低域をブーストしてもこうはならない。
( グラフの見方は こちらのページ )
AVアンプでのサラウンド
現在、測定マイクによる補正機能がないAVアンプ(ONKYO TX-SA800)を用い
た4.1ch(センターなし)サラウンドのリア・スピーカーとして鳴らしている
が、立ち上がり・立ち下りの良い音というのが第一の印象。バックロード・
ホーンであることのほかに、ユニットとホーン開口がほぼ同じ位置にある
点音源であることのメリットも大きいと思う。ユニットとホーン開口が1メ
ートルも離れている点音源スピーカー「スワン」よりもずっと点音源に近
い(?)。高さ120センチのスタンドの上にフルレンジ・ユニットの小型
スピーカーが載っているとも見なせる。また、トランジェントが良いためか、
低域も結構出ているように聴こえる。
メイン・スピーカー用には、AVアンプのプリ出力に接続した外部のパワー・
アンプ(SANSUI AU-X1111 MOS VINTAGE)を使っているので、メインとリア
は回路やグレードの異なる別々のアンプで鳴らしていることになるのだが、
それにも関わらずメイン・スピーカーとリア・スピーカーがまったく同じ
スピードとタイミングで一体となり、音場全体のエネルギーが大きく躍動
し炸裂するといった感じで、以前のリア・スピーカーで感じていた違和感は
払拭されたと言っていい。
ただこれは、リア・スピーカーを鳴らしているTX-SA800がAU-X1111M.V.並みの
音質クオリティだというわけではなく、TX-SA800のプリ・アンプ部のクオリ
ティにシステム全体が支配されているということなのだと思う。いずれブルー
レイ・ソフトのHDオーディオに対応したAVアンプに変更すれば、さらに音質・
音場感ともに向上するだろう。
それと、もうひとつ。AVアンプで5.1chサラウンドを行う場合、設置スペースと
予算が許せば、リア・スピーカーはチャンネルあたり2本以上鳴らすと自然な
音場感に近付くようだ。
これは、最新設備の映画館を見ても分かるように、リア・スピーカーが観客の
左右と背後の壁面にズラリと並ぶ、音源が分散された状態を想定して、映画サウ
ンドが周到に作りこまれていることが最大の理由だと思う。
実際にも、先日最新
の3D映画を観た映画館では、左右に4本ずつ、背後にも4本、合計12本ものリア・
スピーカー(中型ブックシェルフ程度のサイズ)がずらりと並んで観客席を取り
囲んでいた。これを左右1本ずつのリア・スピーカーで再生すると、リアの
音像定位がハッキリしすぎて、逆に不自然さにつながってしまうのは、自明の
ことのように思える。
AVアンプがサラウンド・バックに対応した7.1chタイプであれば、4本のリア・ス
ピーカーをそれぞれのチャンネルに接続すれば良いし、5.1chタイプのAVアンプ
であっても、本機 BH-1026Sのような高能率な(一般的な小型スピーカーより10dB
程度能率が高いため、アンプのパワーは10分の1で間に合う)リア・スピーカーで
あれば、2本並列接続して使っても、それが理由でアンプの保護回路がはたらく
ことはまずない。
メイン・スピーカーが20センチ・フルレンジのバックロードの場合は、振動板
面積のバランスの点からも、リア・スピーカーはチャンネルあたり2本以上あった
ほうが良いと思う。(もっとも、わがやでも本機をリアに4本並べるスペースを
確保することができないのが残念なのだが・・・)
2010/6/11
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