自作スピーカー・ギャラリー


10cm口径フルレンジ編 その9

2本のスピーカーによるステレオ再生の場合、リスナーは2本のスピーカーの 中央を通る線の上に位置して聴かないと音像の定位が曖昧になり、特にボー カルがメインの音楽では中央に位置するはずのボーカルがボケてしまうこと にもつながる。音を気にするリスナーなら、ちゃんとセンターの位置に陣 取って聴くことをわきまえているだろうが、リスナーが音質を確保する方法 に無頓着であたっり複数の人間が同時に音を聴く場合にはそうもいかない。
映画館では数百席並んでいるどの椅子に座ってもスクリーン中央からセンタ ーにあるべき音が聴こえてくるように、スクリーンの裏には2本のスピーカ ーの間にもうひとつ同じスピーカーをセンター・スピーカーとして追加して 上映しているが、一般ユーザー向けの映画や音楽を収録したDVDソフトにも ドルビー・デジタルとdtsが採用され5.1ch再生が推奨されており、デジタル BSにもAACという方式の5.1chサラウンドがある。
しかし一般家庭で困るのがセンター・スピーカーはどのようなタイプをどこ に置くかということ。センター・チャンネルは主に人間が発する声を再生す ることが目的だから、左右2本のフロント・スピーカーよりも小型のタイプ で間に合うという共通認識があるのか、メーカーが5.1ch用として組み合わ せ販売している物の多くは、かなり大掛かりなシステムでもセンター・スピ ーカーはフロント・スピーカーよりもずっと小型である場合が多い。テレビ の上やスクリーンの下に置く場合に無理がなくさほど邪魔にも見えないとい うことを狙っているのだろうが、これで本当に不満は起きないのだろうか。 どんな物であれセンター・スピーカーがあれば無条件で音が良くなるとは言 えないのではないだろうか。

センター・チャンネルのみの周波数特性の例 ( dts音声のセンター・チャンネルを測定 )
                                  グラフの見方はこちら のページを参照
「千と千尋の神隠し」
 お父さんの声
「千と千尋の神隠し」
 自動車の爆走シーン
「タ-ミネ-タ-2 特別編」
 サイボーグT100の声
「タ-ミネ-タ-2 特別編」
 冒頭の公園のシーン

例えば手持ちのDVDソフトからセンター・チャンネルにほぼ声のみが収録され て場面と、効果音も収録されている場面の周波数特性を挙げてみると上グラ フのようになる。 男性の声は100Hz以下まで周波数レンジが伸びている場合もあるので、少なく ともこのあたりをしっかり再生できないと、薄っぺらで耳障りな声に聞こえ ることもあるだろう。さらに効果音については左右のフロント・チャンネル 同様に重低音域までしっかりと収録されていて、決してセンター・スピーカ ーはセリフだけを受け持っているわけではないことが分かる。例に挙げたタ ーミネーター2の冒頭のように激しい音は入っていないシーンでも、暗騒音 のような重低音のレベルがかなり高いこともある。 また、フロントとセンターの3本のスピーカーがあまりにチグハグだと、左 右に移動する音源の軌跡がまともにつながらないなんてことにもなるだろう。
もっとも、能率を下げれば小型でもワイドレンジなスピーカーを作ることは 容易になるが、仮にフロント・スピーカーより実質6dB能率が低いセンター・ スピーカーには4倍のパワーを入力しないとフロント・スピーカーと同じ音量 にはならない。10dB低いとパワーは10倍必要になる。全チャンネル同一パワ ーを謳うAVアンプでセンター・チャンネルの負担が特に大きくなるだけでな く、大きなパワーを入力されたセンター・スピーカーは悲鳴を上げる。

そんなわけで、センター・スピーカーには色々と悩むところが多いのだが、 今回は28〜36インチ・テレビを上に載せることを想定した薄型のバックロー ド・ホーン方式センター・スピーカーを製作してみた。

BH-1019C センター・チャンネル用バックロード・ホーン

この機種は、わたしの設計

左が完成した BH-1019C 。前面から見れば平べったい箱の側面中央 にユニットがひとつ付いているだけのシンプルな外観。15mm厚のサブロク合 板1枚をほぼ使いきってキャビネット1台ができる。ホーン開口は背面では なくキャビネット両サイド後部にあるが、これだとテレビを壁際ぎりぎり まで寄せても問題がない。そのかわりテレビの両サイドに15cm程度の空間 が必要にはなる。
このスピーカーは元々テレビのボディにマッチするようにグレー調に塗装 し同系色のネットも取り付ける予定なので、シンプルな外観にこだわる必 要はなかったのかもしれないが、音質に配慮してネットを付けずに使いた い場合に明るい環境での視聴で目に付く位置に派手なルックスのスピーカ ーがあったのでは映像に集中しにくいのではないかということが、こう いった外観にしたひとつの理由。
ユニットは手元にあった防磁仕様のFE107を付けたが、新型のFE107Eに すれば透明感や繊細感が向上することは間違いないだろう。
FE107やFE107Eは、FE108SやFE108ESIIのようなそのままではバックロード ・ホーンでしか使えないような強力さはなく、FEシリーズの10cm口径の中 ではたしかに最も非力なユニットだとは思うが、それでもバスレフ型で使 うには十分強力で低音を稼ぐには一工夫必要だし、密閉型で使って豊かな 低域を得るには向かないほど強い駆動力があるのも事実。また、30インチ 前後のテレビは確かにテレビとしては大型の部類なのかもしれないが、映 画を観るための画面としてはまだまだ小型ということで、十分にバランス が取れるだろうと判断。BH-1019Cはスロート断面積が40cm2あるので仮に FE108EΣを使おうと思えばできなくもないが、キャンセリング・マグネッ トを付けてもブラウン管への影響を抑えきることができず、シールド板な ど他の対策も必要になってくる。もし使うとすればキャンセリング・マグ ネットは付けずにシールド板のみで対策をするほうが良いだろう。
キャビネットの幅は72cm、奥行きはテレビを載せるため浅くはできないこ ともあり44cm、高さは16cmとなった。


外観はいたって穏やかなのだが、内部はちょっと複雑で右の画像の通り途中 から音道が左右に二手に分かれるバックロード・ホーン。ホーン長は 2.5mある。いわゆるCW型とはしておらず、1本目の音道(スロート)と 2本目の音道、3本目の音道と4本目の音道がそれぞれ2階建てとなる構造。
すべてをCW型にするとスロートは3cmX13cmだが、1回折れ曲がって左右に 分かれる2本目の音道が2cmX13cmのスリットに近い断面となり、その気流 抵抗によって音のにじみなどトランジェントの悪化が進むのが心配。 2階建てとしたことで多少作りにくくなるかもしれないが、センター・ス ピーカーはキャビネットを1個だけ組上げれば良いのだから、さほど骨は 折れない。

音道はしつこく折れ曲がって開口に到る。大雑把に180度の折り返しを1回分、 90度の折れ曲がりを0.5回分とすると6.5回折り返しているため、ホーン開 口からの中高音の漏れも少なくなるだろう。壁の近くにホーン開口がくる設 置となることをあらかじめ想定しているため、全体の音をボケさせる要因と なる漏れてきた中高音の壁からの反射を根本から抑制しておくのは効果があ ると思う。
また、バックロード・ホーンをユニットからの直接音とホーン開口から放射 される音によるアコースティックな2ウェイ・スピーカーとみると、2つの音 源のクロスオーバー帯域での干渉が少ないほうが全域でのトランジェントも 上がるだろう。
また、音道の仕切り板が補強材となっているためキャビネットの強度は極め て大きい。28インチ・テレビで40kg前後、36インチ・テレビともなる と100kg近い重さになるが、この構造ならへっちゃら。大人が載って踊りま くっても、象が踏んでも壊れない。(?)

本体の大きさ
  幅 720 X 高さ 160 X 奥行き 440 (mm)    設計図・板取り図をご覧になりたい方は、こちらから。



    組立の様子


フロント・バッフルと天板を外して正面上側から見る。
左の画像同様の状態で、背面上側から見る。


フロント・バッフルと底板を外して正面下側から見る。
左の画像同様の状態で、背面下側から見る。

設置時に正面から見えるフロント・バッフルは釘打ちせず、木工用ボンド を塗りハタガネとクランプで圧着して取り付けた。       



    周波数測定 と 試聴   グラフの見方はこちら のページを参照



左の画像のように実際のセッティング時と同じく壁際に設置して測定。マイ クはユニットの中心軸上2mの位置にセットした。 ユニットの特徴からかややカマボコ型の周波数特性になっているが100Hzの 再生は楽々クリア、聴感上はそれ以下の低域もしっかり再生。テレビ用と しては十分過ぎるほど。
まずはこのセンター・スピーカー単体で映画音声を鳴らしてみたが、強力ユ ニットによるバックロード・サウンド よりスピード感と分解能では劣るが、ややソフトで膨らみがあるのは今回想 定している用途ではむしろメリットとしてはたらくと思う。両サイドにホー ン開口があるためか低域の効果音では厚みと広がりがありスピーカー全体か ら音が出ているような感じとなる一方、セリフはフルレンジ1発のメリットで 明快に定位し、映像とのマッチングも良さそうだ。50インチくらいの画面 でも十分にイケルだろう。必要とあれば100インチ映像にバランスするくら いの大音量も可能だが、100インチにはもう一回り大きなユニットを使った スピーカーで余裕のある再生を実現したい。
また、実使用時には数十キロのウェイト(テレビ)でガッチリとキャビネッ トを抑え込むことになるので、音の力強さや浸透力がアップすることは間違 いないだろう。30インチ前後のテレビにはオーバー・クオリティかもしれ ない。


BH-1019Cの空気室は内寸で幅が32cmあるので、バッフルの穴あけと空気室の 補強材を変更してFE87Eの2発仕様に変更することもできる。このほうが軽く 聴きやすく低音に膨らみのある音になるだろう。
またはFE87Eを3本取り付けてマトリクス接続しこれ1台だけでサラウンド再生 したり、さらにFE83Eを取り付けたミニのリア・スピーカーを追加してマトリ クス・サラウンドといった使い方も考えられる。  



次に、本来の用途とは異なるが多少の無理は承知の上で100インチ・スクリー ンを中心としたシステムのセンター・スピーカーとして組み込んで映画再生 してみた。 上の画像のようにこのくらいフロント・スピーカーとセンター・スピーカー の大きさに差があるホームシアターはざらにあるのではないだろうか。
フロント・スピーカー BH-1603S は FE107と同種の無漂白の紙パルプ製の振動板を用いた16cmフルレンジのフロ ア型バックロード・ホーンで、スピード感には差があるが音色的にはつなが りは良いほうだ。センター・チャンネルのアンプのボリュームを上げれば音 量的なつながりもクリアできる。また、あくまで測定の上でのことだが周波 数レンジの広さもフロント・スピーカーとセンター・スピーカーでそれほど 大きな違いはない。
しかしセンター・スピーカーの能率はフロント・スピーカーより実質6dBほど 低く、振動板面積はフロント・スピーカーの38%。見ての通りの小型スピー カーであるために、100インチ映像との組み合わせとなるとこのページの冒 頭に書いたような音像や音場のつながりの不整合を感じたり、余裕度の差が 音に現れてセンター・スピーカーがいかにも“がんばって鳴ってます”と いった感じになるのは否めない。振動板の振幅もセンター・スピーカーだけ が目に見えて大きい。しかしこのセンター・スピーカーが悪いわけではなく、 組み合わせ方がおかしいというだけである。
映像主体の場合なら意識が映像に集中するためこれでも気にならない人は多 いかもしれないが、5.1chシステムでのSACDやDVD-Audioのピュア・オーディ オ再生の音質も大事といった場合にはどうすれば良いのか。オーディオ誌等 でのこれらニュー・フォーマットの紹介記事ではきまってセンター・スピー カーにもフロント・スピーカーとまったく同一の機種を用いているし、わた しもそうあることはあえてこのフォーマットで音質を求めていく場合には必 要最小限の事項だと思う。しかし、テレビや液晶、プラズマ・ディスプレー、 スクリーンなど映像機器を含めてシステム全体をどうセッティングすれば良 いのか、悩みは尽きない。



    表面仕上げ


サンド・ペーパーを掛けシルバーのスプレー塗料で着色。画像では ボケているが実物はもうちょっとキレイ。色彩的には白いコーン紙 のFE107Eのほうが合いそうだ。 バッフルの四隅にはネット取り付けのためのマジックテープを貼り付け ている。
明るい部屋での視聴でもできる限りスピーカーが映像鑑賞の視覚的 妨げにならないように、ヒノキの角材で枠を組んだグレーのネットを製作。
ネットごしにうっすらとユニットが見えるが、実際の視聴時にはまず問題に なることはないだろう。


「10cm口径フルレンジ編 その10」
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