銀杏健康講座:石綿と健康

■はじめに
 最近、急にマスコミ報道されるようになったので、ご存じの方も多いと思います.石綿(アスベスト)が建築材料や耐熱性の素材として広い分野で使用されていますが、それが原因で健康障害が発生しているのです.今まで聞いたこともなかった中皮腫という病気が石綿に曝された頃から15〜20年で発症しはじめ、場合によっては50年もたってから発症するといわれています.これはちょうどC型肝炎が慢性肝炎から肝硬変に進行し、肝細胞癌を発生するのに20年前後の年数がかかることと似ています.C型肝炎の場合と比べてより長年月かかって健康障害が起きることが明らかになった現在、今後、中皮腫の発生がまだまだ増加すると予想されるのです.
 石綿は髪の毛の数千分の一の細さで、肺に入ると人間の免疫の働きで、一部がタンパク質にくるまれた「石綿小体」というものになり無害化されます.しかし、大部分は細く尖ったまま残って15〜20年後に、じん肺の一種「石綿肺」となったり、15〜40年後には肺がんをきたすこともあるのです.肺以外では体液の流れで胸膜や腹膜へ移動した石綿が、からだの組織を刺激し続けることによって、20〜50年後に中皮腫を発症するといわれているのです.

■石綿について
 石綿は天然の繊維性ケイ酸沿塩鉱物の総称で、角閃石系クロシドライト(青石綿)、アモサイド(茶石綿)、アクチノライト、トレモライト、アンソフィライトの5種があり、蛇紋石系にはクリソタイル(白石綿)があります.戦前に輸入されていた石綿が戦時中輸入が止まっても国産では秩父で産出され、戦後は輸入が再開され漸増し、1970〜92年には毎年25〜35万トンがカナダ、南アフリカ、ロシアから輸入されてきました.その後は漸減し、2001年には7万トンまで減少していますが、まだ、輸入や使用が全面的に禁止されたわけではありません.21世紀の中頃までは中皮腫の発症が続くと予想されているのです.
 石綿の性質は物質として安定しており、変化しにくく、非常に軽くて花粉のように飛散しやすいのが特徴で、飛散しても気がつきにくく、発癌性があります.

■国の責任といわれる理由
 今までにアスベストを減らせる大きな転機がいくつかありました.1975年(危険な吹きつけアスベストの新規使用禁止--->重量比5%以下のものが野放し)、1988年(学校の吹きつけアスベストの制限--->文部省は3品種だけ通達の対象.学校以外の建物は放置)、1995年(阪神淡路大震災後の対策--->解体・改築の際のアスベストを記録する義務づけされたが、制度が不十分のうえ、費用もかかるので、結局多くの職場で記録されなかった).いずれのときも、不十分なことしかできていなかったのです.

■どのような病気がどのように発症するか?
 1)石綿肺(じん肺のひとつ):これは職業的に10年以上、石綿の曝露を受けた人のみに発生する可能性があります.こういう方はじん肺法に基づいた検診を受けていらっしゃるはずです.数年くらいの暴露や環境曝露(濃度の薄い場所で)では発生しないといわれています.
 2)悪性中皮腫3)石綿肺がん4)胸膜肥厚斑については、1)とちがって低濃度で短期間の曝露でも発生するといわれています.--->これがもっとも問題なわけで、しかも20〜30年間は症状もでないし病気も全くでないので、石綿の曝露を受けたことを心配して検査しても所見はみあたらない場合があるわけです.
つまり、仕事のために20〜40歳代で石綿に曝された方の多くが60歳までの在職中には所見が少なく、それ以降に発病する理由はこの長い潜伏期にあるのです.(ここにあげた年数は平均での話で、個々には20歳で石綿に曝されて10年後の30歳のときに中皮腫になった方もあれば、16歳ではじめて石綿に曝されて、70年後の86歳で悪性中皮腫を発症した例もあるのです.)

■中皮腫について
 上皮(外胚葉)からできているのは皮膚、消化管、呼吸器系でこれらから発生する悪性疾患は“がん”であり、皮膚がんとか胃がん、肺がんなどです.
 内皮(中胚葉)からできている人体の成分は血管、血液、筋肉、脂肪組織などで、これらから発生する悪性の病気は肉腫、悪性リンパ腫、白血病などがあります. 中皮(中胚葉)からできているのは胸膜、腹膜、心膜などですが、これらから発生する悪性疾患を悪性中皮腫といいます.

■肺がんについて
 タバコも吸わずアスベストにも曝されなかった人の肺がん発生率を1としますと、タバコを吸う人の肺がん発生率は10.8倍.タバコは吸わないがアスベストに曝された人の肺がん発生率は5.2倍.タバコを吸っていてアスベストにも曝された人の肺がん発生率は53.2倍にもなるという統計があります.
 肺がんには4種類ありますが、アスベストにはそのどれをも発症しやすくするというデータがあります.

■すぐできる対策
 1)石綿(アスベスト)を扱う仕事の種類と、従事した時期と期間を思い出して記録してください.
 2)タバコについて喫煙指数を計算しておきましょう.
 --->1日に吸うタバコの本数(   )×年数(   )=(    )
  喫煙指数が400以上--->要注意
       600以上--->厳重注意
 3)毎年、胸部レントゲンを含む検診を受けて下さい.
 4)可能性の高い人は、胸部CT検査を受けて下さい.
 5)アスベストの血液検査がアメリカで開発中です.国内で認可になれば早期発見に役立つかもしれません.

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