銀杏健康講座:SARS(重症急性呼吸器症候群)6月27日
■はじめに:
 今年、重症急性呼吸器症候群SARS(新型肺炎)は世界中にイラク戦争に劣らない大きな影響を及ぼしました.さいわい日本には感染者が出ませんでしたが、経済的影響はたいへん大きいものでした.今治市では多種の企業や学校があり、SARS発生国へ出張しなければならないところや留学生や研修生を受け入れているところもあります.最近、産業医として相談をうける機会がありましたので、SARSの経験もなく専門医でもありませんが、医師会からの資料、毎日のニュース・TV特集、WHOの資料など入手できたものから現時点でのSARSの話題をまとめてみました.

■SARS
 現在も中国の北京と台湾とカナダのトロントでインフルエンザと肺炎を合わせたような集団感染症が続いています.6月24日に香港が流行地域からはずされたニュースがはいってきました.6月27日中国では入院患者が39人(北京では34人広東4人上海1人)に減り、応急で作ったSARS専門病院では合計680人が患者として収容されましたが、最後の患者が6月20日退院し、香港に続いて流行地域からはずされる日が近づいています.
 原因は突然変異を起こしたコロナウィルスによると発表されていますが、ハクビシンなどの動物のDNAと類似の部分があり、今後の研究に期待されています.

各国での発症状況
 平成14年11月頃(非公式には1月?)からすでに中国広東省で原因不明の肺炎が発生していたといわれています.広州市在住のある男性海鮮卸商はH15年1月28日、高熱で市内の中山大学第2病院に入院し、そこで病院職員30人に感染させ中国最初の大きな感染源になったそうです.この男性の診察をした大学教授が感染したまま2月に結婚式出席のため香港へ出張し、メトロポールホテルへ宿泊しました.そこで発病してプリンスオブウェールズ病院へ運び込まれたのですが、この2ヶ所の施設で接触した人たちから一挙に感染が世界中に広がったのです.
 メトロポールホテルですれ違った宿泊客の一人がベトナムのハノイへ移動したときに発症してハノイ・フランス病院へ入院し、世界初のSARS患者として2/28にメディア報道されました.これは、自らの命を懸けて担当したWHOのカルロ・ウルバニ医師のこの病気に対する熱意によるものです.彼によってこの病気の危険なことが初めて世界中に発信されたのです.その頃より香港、シンガポール、タイ、カナダなどで次々に患者発生.急速に感染が広がったのは、このように感染者の中に一人でおおぜいに感染を広げるスーパースプレッダーと、その舞台になる感染拡大施設が大きな役目を果したと考えられています.感染拡大施設としては上記の2ヶ所以外に香港の高層住宅アモイガーデンの配水施設の不備による上下方向への感染拡大が知られています.

 6/27現在:感染者数は8456人.中国の感染比率が非常に高く、現在、中国・香港・台湾だけで全感染者の91.9%以上です.死亡者数は809人.死亡率は4月の4.0%から現在9.5%へ増加.香港では16.8%、トロントで14.7%、台湾で12.3%に達している.治った例は7371人.しかし、治癒しても再発する例もあるので、注意!

4月20日に中国は発表したデータを修正.中国の感染比率が非常に高く、現在(6/4)、中国・香港・台湾だけで全感染者の91.9%以上になっている.

 SARSは6月中旬になって世界的に終息傾向がみられているが、本当の終息の確認には1年間の監視が必要とWHOが発表

■SARS疑い例:2002年11月1日以降に発症.
 症状:高熱(38℃以上)・咳(痰を伴わない)・呼吸困難感などの呼吸器症状があるもので、発症前10日以内にSARS流行地域からの帰国者あるいは渡航者と接触してSARSを心配している者
 WHO発表の伝播確認地域は現在、トロント、北京、台湾です.(香港、河北省、山西省、広東省、吉林省、湖北省、江蘇省、陝西省、内モンゴル自治区、天津、ハノイ、シンガポール、ロンドン、米国などはすでに取り消しになっています)

■SARS可能性例:
 疑い例であって、胸部レントゲンで肺炎の所見のある者.または血液検査陽性(しかし、3〜5%偽陰性があるので注意)

■日本での感染例
 SARS疑い例は計52人.SARS可能性例は計16人.SARS対策専門委員会にて全例否定された.
 5/9に台湾のSARS感染者が日本へ観光旅行し、感染拡大の危険があったが、運良く感染事故なしに終わり、5/23安全宣言された.しかし、危機管理の問題やその影響の重大性が改めてクローズアップされた.

■日本政府&愛媛県庁の対策
1.伝播確認地域への不要不急の旅行は延期をするよう危険情報をだした.
2.伝播確認地域からの帰国者に対する検疫体制を強化.また、受診時は事前に医療機関へ電話連絡するよう.
3.伝播確認地域から留学生・研修生を受け入れ予定の企業・学校・団体は今治中央保健所へ相談する.
4.6/20厚生労働省はSARSを新感染症に指定し、1年間エボラ出血熱とかペストが含まれる1類感染症に近い措置がとれるようにすると発表.

■SARS受け入れ医療施設
 5/24に愛媛県内でSARS疑い患者の外来診療を受けつける8医療機関が公表された.
 東予では県立今治・西条中央・県立新居浜の各病院.ただし、制限があるので、必ず各地域で最寄りの保健所の感染症相談窓口に電話(今治は23-2500、夜間休日は0909-770-8495)で連絡の上、何時にどこの病院のどこの入り口へ行くか指示を受けてください.

 詳しくは、■愛媛県重症急性呼吸器症候群(SARS)緊急情報をご覧ください.


 注意!医療機関の受入について:SARS感染した可能性のある患者の入院先に指定されている(第2種感染症指定医療機関)京都府内の某公立病院に5月下旬、帰国して約1週間後、38度以上の熱が出たため救急搬送された.患者は肺炎の兆候はなかったが、抗生物質を投与しても熱が下がらなかったため、京都府が厚生労働省と協議して入院を指示した.しかし、病院側は「院内感染や風評被害が心配」と入院を拒否し、「もっと設備の整った医療機関で受け入れてほしい」と主張.地元自治体も同じように訴えたため、府はエボラ出血熱、ペストなど高い致死率の感染症が対象で施設面の基準が厳しい第1種指定の大阪市内の公立病院と交渉.患者は約70キロ離れた病院に運ばれた.患者は結果的には「扁桃腺炎」だったが、医療機関の受け入れ体制の不備が問われる事例が既に起こっている.

■家族がSARS感染らしくなった場合:
 日本国内で、もしもSARS感染者が発生したら、知らない間にどこかで接触して感染してしまう可能性がでてきます.国内にSARSが入ってきたニュースが流れたら、海外の流行地へ旅行などしていなくても感染の可能性がでてくるのです.症状としては・・・
1.38度以上の発熱をして
2.空咳をしだした時は注意!
 それが短時間のうちに急速に悪化したり、呼吸困難や筋肉痛、下痢・腹痛などきたすとかなりSARSの可能性が高くなります.これらは風邪やインフルエンザに似ているので区別が困難.しかし、SARSは肺炎までいくと感染力が強いですが、初期症状のうちは感染力が弱いとされているので、保健所の注意を守りながら、又は下記の注意を参考にして、早いうちに対処することが大切です.(SARSウィルスは通常のウィルスと違って、放出量のピークが10日以降にくるため)
 家族の誰かに1.2.の症状がでた場合は保健所に連絡して指示を受けなくてはなりません.現在、入手できるあらゆる情報を探しても、これより他に良い方法がないのです.SARS外来受け入れ病院が決まっても、その受診時間までは、家族だけでなんとか世話と看護をしなければなりません.

■家族の対応と病院受診まで:
 家族内で対応するときの基本:SARSは飛沫感染の他に接触感染も感染の危険があるということです.飛沫感染は1〜2m以内が感染しやすいということに基づいた注意をすること.接触感染は、ガラスや金属の表面でもSARSウィルスは3日間生存するそうです.ですから感染者の触れた戸や窓やトイレ・洗面所・寝室などで手を通じて接触により感染を起こす可能性があるわけです.次の注意が必要です.
1.手で自分の目や鼻や口を触らないこと.
2.感染者の世話をした後は頭を含む全身を石鹸を使ってシャワーなどで洗い、衣服を着替える.
3.マスクの着用:フィルター効果の大きいもの.二重にするとより良い.
4.直接接触する機会を減らす:別室で休ませる.1〜2m以内にできるだけ近寄らない.
5.保健所へ電話連絡して、指定の時間に指定の病院へ行くときは一人で運転していく.本人が運転できないときは、家族一人がマスクをして運転する.そのとき本人はできるだけ遠くの席に座る.(これは感染の確率を少しでも減らすための方法です)
 アイソレーター(特別な搬送車輌)を使えればよいが、日本にはまだ非常に少ないので(愛媛県では3台)、救急車の利用については保健所の指示を受けて下さい.
 また、病院へは指定の入り口から指示どおりの入り方をすること.

■その後の家族は:
 症状のでた家族が感染可能性例と診断された場合--->入院となる
 残りの家族は症状が無くても感染接触者として10日間観察が必要となる--->
1.毎日2回の検温
2.マスクをする
3.人混みへの外出禁止
4.10日間毎日保健所からチェックが入るはずです
5.入院前に感染者が触れたところや物はすべて消毒

■予防法:
 基本はやはり
1.手洗い
2.うがい(イソジン液、15秒以上)+ 洗面
3.マスク着用
4.手で触れるところの消毒(ハイターなどの次亜塩素酸ナトリウム含む塩素系家庭用漂白剤、消毒用エタノール などで)
5.自分の免疫力を高める:十分な睡眠・バランスのとれた食事をとる


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