バロウの山桜探訪


 国道11号線から、美馬郡半田町の町内に、JR徳島線を越えて入っていく。阿波半田町は手のべそうめんの

里として250年の歴史をもっている。冬季に町内のあちこちで純白のそうめんすだれが揺れているのもこの地

ならではの風景である。 山深い所で、昔は南に接した一宇村の木地屋と半田町の木地屋が提携して、半田塗

りと呼ばれる膳や碗が名産品であったそうだ。

 町役場の前を過ぎて、上蓮に到る細道をどんどんと南に上る。徳島バスでは阿波半田から上蓮行きの坂根で

下車して歩きとなるが、そのあたりからバロウの大桜へと示した立て札があるのでそれに従って行けるのはあ

りがたい。 この近くの高清という所にも、県指定天然記念物の高清の大杉という立派な巨樹がある。


 

 

 

 

 

 

  

 

  1.目通り周囲8.6m/樹高35m 2.目通り周囲6.4m/樹高35m

高清の大杉  高清に入って、案内板の示す道を行くと、とうとう民家の庭で行き止まってしまった。畑仕事

をするお婆さんに訪ねると、この奥の斜面を上っていくのだという。見ると庭の隅から獣道のような細道がかろ

うじて続いている。徒歩で10分程、急な坂道を上ると、上方に立つ一対の大杉が見える。一本は主幹の割に

通直な素直な樹形で、もう一本は6〜7本の大枝に分かれたような変形の幹。おそらく何本かの合体木だろう。

二本の間にはすっかり苔むした石の小祠が奉ってあり、樹齢700年ともいわれる樹の古さを物語っている。


 さて、バロウの桜は上蓮のさらに奥である。案内板に従って小橋を渡り、細道を行くと、坂の上の民家の庭

で又行き止まってしまった。ここからはバロウ山に到る険しい登山道を歩いて上っていかなければならない。

登山の支度をしていると、犬を連れたおじさんが「案内するから一緒に行こう」と言うので、そうする事にした。

  

 最初からかなりきつい坂道で、ゆっくり出ないと後でばててしまう。話を聞くと、この人は猟師さんで、犬は猟

犬だという。4日程前に別の犬をイノシシに掛けてまだ戻ってこないというので、バロウ山の方まで見に行くつ

いでだとの事。犬はその間、イノシシのフンなども食べて生きているというので驚く。この犬も小さいが、甲斐

犬の混じったガッシリとした顎で、大きなイノシシにも勇猛に向かっていくそうだ。

 かなり上ると雪が残っていた。「これ見てみい」と言われて足下を見ると大きな足跡がある。子牛程もあろう

か、大きなイノシシの足跡で、まだこの辺りには多くいるそうだ。個人でも、年に25頭程は獲るという。

  

 「熊はいますか?」と聞くと、そんな話はあるが、おそらくイノシシの大きな奴と見間違えたものだろうとの答え。

それにしても現在猟師で暮らしている人が四国にまだいるというのが驚いた。

 途中何度か別れ道があって、案内板はあるのだが、やはり道に迷って別の小さい桜を見て帰る人がいると

いう。バロウの山桜は、杉林を抜けた光輝く山上の広場にあった。

 後光が差すとはこの事だろうか。枝をめいっぱいに広げた大木が開けた空間で凛々とその存在を主張して

いる。すぐ後ろは断崖で、下界には小平野が霞がかって開けている。雪道を立ち寄る足が、もつれるようなも

どかしさで、できるだけゆっくりと近づいていく事にした。

 

 これは大きい。案内では幹周5.5mとあるが更に大きいようだ。ただ枝の枯れが著しい。周りに杉を植え始

めた頃から樹勢が悪くなってきたそうだ。雑木を切り払って環境が激変してしまったのだろう。ただ幹の重量感

は素晴らしく、実測すると、上部の接地面からの目通りで6.18mもあった。あのひょうたん桜よりも大きい四国

最大の目通りではないか。驚いた。これが健康体ならどんなに素晴らしい開花の風景なのだろうか。

樹齢の4〜500年もこれなら大きく頷ける。「もうちょっと前に手を入れといたらなあ・・・」病気の子供を見舞うよ

うな目で猟師のおじさんがそう、呟いた。 ただ、この巨樹の勇姿を目にできたことは大変に貴重だった。しばら

くは樹下で休息し、何度も樹の周りを回った。見れば見るほど立派な樹だ。大きく満足して、開花を祈りながら山

を下りた。                                             上り1時間、下り30分程