段の谷山 / 巨杉の森に幻の天狗杉を探す!?・・・ 1/2 

四国最大級の巨木林帯・暴れ大杉の群/高知県・室戸市


  

     徳島から海岸線に沿って高知の室戸岬に向かう国道55号線は、室戸阿南海岸国定公園に指定された風光明媚な道である。

    特に高知県に入ってからは、コバルトブルーの海を間近に臨み南国の潮風を肌で満喫できる。

    室戸市に入り佐喜浜港に差し掛かる頃、遙か野根山から稜線を押し分けて流れ来る佐喜浜川が、日に水面を煌めかせて蕩々

    と流れている。

     

     流れに沿って鬼戸、山口の民家を過ぎると、狭ばった舗装路が更に粉塵を上げる砂利道となり、辺りは全く空と山と川だけの

    空間になってしまう。川音と木々の香りだけが日溜まりの中に漂っている。

    段の谷山は、地蔵峠を越えて安芸郡北川村に至る野根山街道の南斜面に広がる国有林の一帯で、多種の照葉樹に紛れて

    樹齢数百年の巨大な荒れ杉が点在する巨木の森である。

     

     目通り3m以上の杉が50本。内、経級2mクラスの巨樹が何本かあって、四国でも最大級の巨木林帯である。段から更に山

    道を上り、いよいよ徒歩の野根山登山口に至る。途中モミ、ツガ等の大木が目に付き、渓流を渡って対岸の杉林に分け入ると

    大木の根元に捨て置かれたような小祠があった。元はこの辺りにも民家があったのかもしれない。

     

     登山口に立つと、斜面の広葉樹から抜け出した杉の巨樹独特の荒れた樹冠が、ポツリポツリと点在している姿が見える。

    まるで自らの縄張りを主張しているかのようで、登りがいのありそうな山道に、やや気分も高揚し始めた。この中に目通り12m

    四国第2位の巨杉「天狗杉」なるものが本当にあるのだろ。

     

     ブナ、カシ、シイ、等の大木も目に付く。そして、そろそろ杉の巨木も見え始めた。ただ、登山道とはいえ、時に切り立った岩場

    をしがみつくようにして登る難所があり、ふと目に付いた直径1.5m程の大きな切り株に座り込んで、しばし休息する。

      

     目前に大きな杉があった。斜面に立って目通りは分かり難いが、経級2m前後はありそうだ。主幹も通直ではない野生樹の

    様相で、下枝も伸び放題の正に荒れ杉という印象だった。更に2本、3本と大きな杉が現れる。そのどれもが同じような荒れた

    樹形で、根元には保護の対象としてだろうか、白いテープが巻かれている。

     

     このような主幹の真っ直ぐでない杉は大概用材としては適さず、搬出時の邪魔者として排除されるか、又逆に

    そのままに捨て置かれるか。その後者として残っただろうこの荒れ杉は、それを幸いとして今ものびのびと好き

    放題に成長し続けている。樹にとってはどちらがの方が良かったのだろうか。