魚梁瀬森林鉄道/千本山 ・・・ 1/2

 巨木を満載した小さな機関車が、ヤナセから奈半利町までを明治大正昭和と走り抜けた、旧森林鉄道の道。


                          ●ヤナセ森林鉄道

     高知県、安芸郡、安田町。明治44年に開通した安田川線は、安田川の河口から川沿いを遡って馬路からヤナセに至る。

    もう一本の奈半利川線もまた、奈半利町の貯木場から奈半利川に沿って島からヤナセへと伸びている。この二線が魚梁瀬森

    林鉄道であるが、上流のヤナセダムの建設でその役目をトラック輸送に奪われ、昭和38年に廃線となった。この森林鉄道は

    戦時の木材需要の急激な上昇を受けて、ヤナセから更に千本山に群がる樹齢数百年の巨木をどんどんと伐りだしていった。

    大正半ばまでは18000ヘクタールあった巨木の森が、平成4年には僅かその1割が残るばかりまでになっている。その残っ

    た1割の巨杉が、千本山の魚梁瀬美林なのである。

       

     ●安田町の海岸                                ●昭和期の奈半利貯木場

     土佐湾を臨みながら高知と室戸を結ぶ国道55号線は、海沿いの景観を各所で楽しめる。今回は安田川町から安田川線を

    遡った上ったが、奈半利町には現在もトラックで運ばれてくる材木が、広い貯木場に積み上げられている。安田から馬路まで

    はなだらかな一本道が川沿いに続き、川風と山の緑が目にも肌にも心地よく、このまま天にでも昇れるような快適な道が続く。


     安田町の中程に西ノ川というところがある。安田川沿いの道から西に上り、斜面に開かれた田圃の向こう側に灌木の中から

    ひょっこりと樹冠を擡げた杉の巨樹がある。光の満ちた水田に、風にそよぐ若い苗が気持ちよさそうに首を振っている。脇には

    冷たい石清水が煌めきながらゴウゴウと水しぶきをあげて流れていく。天の神の杉とはまたこれも良い響き。斜面にあってや

    やこぢんまりとした印象であるが、樹皮はまだ赤みをを帯びて若々しい。根元には小祠が一つあるばかりで、天の神はこの一

    帯全てにあるようだ。


     西ノ川からさらに安田川線を遡る。馬路村に入ると、一転して民家の集まった賑わいがあり、林業盛んな頃の山里の面影が

    ここにはまだ残っている。資料館には当時の林鉄を偲ぶ資料が多数あり、また温泉場としても人も集まっているようだ。

     さて、この少し先の東川と言うところにもまた、天の神の供物とでも言ったような巨杉が一本残されている。周辺の住宅を睥

    睨するかのごとく、奔放に枝葉を伸ばせてゆるぎ立った大杉は、抱きかかえるような格好で、幼い杉が根元を同じくして立って

    いる。その名を観音堂の大杉といい、その昔この地に落ちのびた平家の平隆長が隠れ住んだと言われる。観音堂には室町期

    の観音像が今も安置されているとのことである。

  

 ●魚梁瀬ダム                                ●ヤナセ 丸山台地

    東川を過ぎると曲がりくねった山道が続き、やがてヤナセダムへと至る。丸山台地はダムに沈んだ地区の人々が新しく移り

    住んだ湖上の一区画で、まるで箱庭のようにきれいに整備されており、公園には林鉄の復元された機関車が観光用に日曜

    祭日は今も走っているとのこと。千本山には、ここからさらにダム湖を遡っていくのだがここでひとつ横道にそれて、もう一本の

    林鉄線、奈半利川線に入ってみることにする。


資料/NHK.BSスペシャル 巨木の森の小さな鉄路 (寺田正写真集/林鉄)