吉野川南岸の巨樹 ・・・ 4/4 


  

 

三加茂町に入ると、国道192号線から分かれて南岸には伊予街道が通っている。川幅がやや狭まってきた

  が、このあたりでもまだ水量は豊かで、東岸に走っている撫養街道とは川の湾曲もあってかなりの距離がある。

 吉野川の中州や沿岸は豊かな耕作地でもある。広々とした畑の向こうに、鬱蒼たる竹林が茂り、防風林の

  役目をはたしている景色もよく見える。また遊歩道やグランドが整備されている所もあり、人の暮らしとも大き

           くきく関わっているようだ。


 加茂の大楠  目通り13m/樹高25m/枝張り45m/三加茂町加茂/国指定特別天然記念物 


 加茂の大楠は本編の楠の巨樹の項ですでに紹介したが、吉野川南岸でこの大楠を外すわけにはいかない

  だろう。現在は上の数字より更にいくらか大きくなっているようだが、樹齢は850年という説もある。全国に名

  だたる大樹の示す、千年、二千年の齢になるとしたら、一体どれほどの大きさになるのだろう。樹勢は過去よ

           りも旺盛になってきたような気もする。この樹はなぜか永遠に無くならないような感がある。


 井川町に入った。近年にスキー場ができた腕山の登山口がある辻あたりに、坂のきつい石段が上っている。


今宮神社の楠  目通り6m/樹高25m/枝張り25m/井川町辻・今宮神社


 上り口の正面には目通り5.2mのケヤキの大木があるが、やはりここにも楠の巨樹がある。境内にもう1本

これに準ずる楠の大木があり、高見にある神域は緑の蔓延る大きなテラスのような趣があって清々しい。


  いよいよ阿波路の巨樹も次の池田町で最後となる。流れもやや狭まって、対岸の撫養街道が讃岐路から

           くる国道32号線とつながった。三好大橋が吉野川を渡って、池田町から土佐路へと続くのだ。


 医家神社の楠  目通り6.5m/樹高20m(目測)/池田町マチ・医家神社


 

 この楠も既に「巨樹調査に載っていない樹」で紹介したとおり、立派な大樹である。幹の損傷も見られず樹

勢も良いようだ。国道からもその繁茂が近くに見え、少し離れた高台に奉れた諏訪神社には、見栄えの良い

銀杏の大木がある。鳥居横にあるのはムクノキだろう。これもかなり大きい。


 


 池田から川は大きく湾曲して南にさかのぼる。土佐に入るまでに、風景は劇的に変化する。祖谷山川と合

  流するあたりから川幅は明らかに狭まって、両側の山に目を取られ始めた。対岸が切り立った断崖を呈する

           大歩危、小歩危渓谷の始まりである。

   この風景を見ると、川と山とはやはり一体のものなのだなあと思えてくる。それを分かつようにこの国道が走って

          いるのだが。祖谷山の入り口を越えるともうすぐに土佐路である。


星神社の杉  目通り7m/樹高20m/枝張り7m

                目通り6.5m/樹高28m/枝張り10m/高知県大豊町中屋・星神社


 土讃本線田口駅を対岸に見るあたりの田圃の中に、一対の巨樹が天に向かってそびえ立つ。西側の杉は東

          のものより幹は太いが頭頂部が欠損し樹高はやや低い。

          後方には秀峰「梶ケ森」があり、中腹には名滝「竜王の滝」がある。このすんだ流れもやがては吉野川へと流

          れ込んで一帯を潤しているのだろう。


こうして川を遡って見てくると、阿波は楠の国。土佐からは杉の国となるようだ。なぜかはよく解らないが、そ

の傾向が強い。これを阿波人と土佐人との気質に例えようと思ったが、うまく浮かばないようなのでやめた。

          樹も様々な風合いがあるが川にもまたいろいろな景色があった。どちらも穏やかで美しい。

          母なる川に樹は育ち、人々が暮らしている。道を教えてくれた皆さん、どうもありがとうございました。

 

 

 


     次回、巨樹のある風景は、徳島市から室戸岬へ「土佐街道周辺の巨樹」の予定です。