エヴァンゲリオン.episode 25.26 (私案)




 ここでは私が劇場版のエヴァンゲリオンがよく理解できなかったので、独自に構想したエヴァのラストの内容を展示しています。 分からないものについては独自に考え直してみるのが私の癖で、いまだに私は10年以上前に読んで分からなかったヘーゲルの論理学の再構成に取り組んでいます。 それはともかく、ここにはいかめしい「コンセプト」とか「設定」が並んでいますが、これらは物語を考える前に作ったものではなく、物語を考えながら組み立てていったものです。 ちょうどHPの画面を見ながらダグ打ちをしているようなものです。 難しいのがいやな方は、前の部分を飛ばして「4.物語の具体的展開」をお読みください。
 


1.コンセプト(物語を創り出すにあたっての課題として)

(1)復活の物語・・・セカンド・インパクトからの再生としての最後の審判

 エヴァンゲリオンは福音の物語として、人々の再生、あるべき人間の生の復活を提示する物語でなくてはならない。
 そのためには、キリスト教の伝統からすれば、イエスのような神と人との媒介(生け贄)を必要とする。しかし、すでにイエス自身が十字架に架けられている以上、シンジを同じような形で十字架に架けることは出来ない。
そこで、シンジを生け贄の子羊とするにせよ、彼をどう生かし、誰がかつてのイエスのように昇天するかを考えなくてはならない。

(2)アブラハムとイサク・・・父と子の緊張(創世記22章)

 ゲンドウとシンジとの関係には特別の緊張関係が存在している。私はこれを神の命令にあくまで忠実であろうとしたアブラハムとそのために父によって生け贄にされかけたイサクとの関係になぞらえる。創世記第22章において、神はアブラハムの信仰を試すために、その子イサクを神に捧げることをアブラハムに命じ、彼はその子を自ら手に掛けようとする。それをみた神はアブラハムに満足し、その子孫の繁栄を約束する。
 そこで、ゲンドウはその子シンジをイサクのように辛い立場に追いやっているが、その目的は何か? 更にこの親子はいかにしてその過去に報いられるのべきなのかを考えなくてはならない。

(3)現実世界と異界・・・2つの異なった世界の接触によるセカンド・インパクト

 シトとは現実世界への異界からの侵入者である。セカンド・インパクトは現実世界とこの異界との接触によって生じたが、エヴァンゲリオン自身がその異界のシンボルである。そこで、この両立し得ない2つの世界をいかにして和解させ、あるべき形に戻すかを考えなくてはならない。

(4)男性原理と女性原理・・・物語の前景・後景となる2つの原理

  エヴァの物語はゲンドウとシンジとの緊張関係を主軸にして展開されるが、その一方、綾波レイ、碇ユイにみられる謎に満ちた曖昧な女性的なものが背景として存在している。そこで、前景としての父と子の緊張を反転させ、後景としての女性的なものを前景に出すことにより、この2つの異なった原理をいかにして一つのものとして語っていくかを考えなくてはならない。



2.物語の設定(1)・・・物語の基本的前提

(1)ゼーレの本体

 物語でゼーレと呼ばれている老人たちは本来の意味でのSeeleではない。Seeleとはセカンド・インパクトとともに発現した地球そのものの意識体のことである。これは正式には die Erd-Seele(「大地の魂」の意味)と呼ばれるものだが、その意志は盲目であり、その意志を制御するために発足した委員会が物語においてゼーレと呼ばれている
 しかし、冬月が「ゼーレのお出ましとは」と言ったように、すでに委員会は本来の枠を越え、Seeleを支配するゼーレとして振る舞っている。

(2)シトとアダム

 シトとは die Erd-Seele の意志を発現させる鍵であり、アダムはその錠である。従って、サード・インパクトとは地球そのものの意志の発現に他ならないわけであるが、その形態は各シトによって異なり、望ましくないシトとのインパクトを避けるためにネルフが創設された。
 なお、各シトはそれぞれ物質から生物への宇宙の進化過程を反映し、最後のシトである渚カオルは人間の精神を反映している。

(3) die Erd-Seele の発現(インパクト)の原因

die Erd-Seele の発現は直接的には、現代の科学者たちが南極において先文明の科学的成果を再発見したことによる。しかし、その背景には人類の過剰な繁栄と環境破壊があり、一度覚醒した die Erd-Seele は人間に対して敵対的になっている(神の怒り)。
 なお、シトもアダムも先文明の遺産であるが、人類は先人を滅ぼしたファースト・インパクトの際、アダムの遺伝的影響を受けて進化した種である。



3.物語の設定(2)・・・物語の展開のための設定

(1)ネルフ(ゲンドウ) vs ゼーレ(老人たち)

  die Erd-Seele と人類との矛盾はすでに限界に達しており、何らかの形での両者の和解が必要とされていた。

*ゼーレ(老人たち)の解決
 精神を持つシト(カオルもしくはレイ)によってサード・インパクトをおこす。これによって人類の大半を die Erd-Seele と融合させることを意図しているが、実際にはそれは精神汚染による人々の安楽死に他ならない。生き残るべき人々はゼーレによって管理され、マルムーク機関を通して die Erd-Seele に適合するように強制的に進化を促される。

*ゲンドウの解決
 精神を持ち、なおかつ完全な理想体として形づけられたレイによってサード・インパクトを起こす。そのインパクトは人類にとって最後の審判となるべきものであり、これによって全人類は die Erd-Seele と合一する。
 ここにおいて、ゲンドウはサード・インパクトによる人々の die Erd-Seele との合一を単なる安楽死とは見ていない。更にその後の再生・復活を信じている。

(2)レイの正体
 レイはユイの細胞を基にして作られたクローンだと考えられているが、実は早世したシンジの双子(二卵性)の姉であり、ゲンドウは サード・インパクトによって2人の復活を意図している。



4.物語の具体的展開

(宣戦布告ーネルフvsゼーレ)
 カオルを殺したことでゲンドウはゼーレの尋問を受ける。なぜカオルを生かしておかなかったのか?老人たちの問いに対して、ゲンドウは彼はあくまでシトであり、我々の管轄を離れてアダムと融合しようとしたためにやもうえず処分したと答える。あのとき融合を阻止できなければ、ネルフそのものが精神汚染にさらされたであろうとゲンドウは主張する。しかし、本来それが目的であったゼーレの老人たちはゲンドウに対してネルフの解体・非合法化を宣言する。

(レイとシンジの誘拐)
 その頃、ゼーレはすでに日本に潜入させていた特殊部隊によりレイとシンジの誘拐を敢行する。レイの誘拐は成功したが、シンジはたまたま彼を訪ねていたトウジ、ケンスケ、そして彼をマークしていたカジの手により誘拐を阻止される。

(マギのハッキング)
 更に、ゼーレは同型のコンピュータによってマギのハッキングを開始する。リツコの努力によってハッキングそのものは阻止されるが、その際ネルフの多くの機密がゼーレの手に渡ることになる。落胆するリツコにゲンドウはまだ最後の秘密は守られていると言う。

(ネルフ解体指令)
 ついに、ゼーレは公式にネルフの解体とその非合法化を宣言する。これに呼応して日本政府はネルフ本部を戦略自衛隊によって包囲するが、その一方で実質的な中立を維持する。更に、政府は取り調べのためと称してゼーレの特殊部隊の生き残りを拘束し、ネルフを側面から援護する。これはすでにシトが殲滅されている以上、国家の主権は回復されるべきであるとの政府の意向が背景にある。カジがゼーレの抹殺を逃れたのも日本政府の意図による。

(ゼーレ直属部隊の派遣)
 日本政府の曖昧な態度に対して、ゼーレは即座に周辺国にいた直属部隊の派遣を決定する。 更に、偽りのシト(増産されたエヴァンゲリオン)の各国からの派遣を開始する。

(シンジのネルフ潜入)
「・・・ゼーレは人類を人類によって補完しようと考えている。しかし、君のお父さんの考えでは人は die Erd-Seele によって、それに身を委ねることによってしか補完されない・・・。」カジから事の真相を聞いたシンジは自らエヴァンゲリオンに乗るためにネルフ本部への潜入を決意する。彼はトウジやケンスケの協力を得つつカジとともにネルフ本部への突入を開始。自衛隊は中立を維持しているものの、拘束を逃れたゼーレの特殊部隊との戦いが始まる。

(カジからミサトへ)
 ネルフ本部の内部でゼーレの特殊部隊との激闘が繰り広げられる。カジの行動を察知したミサトは自らシンジを受け取るために危機に陥っている2人の救出を試みる。九死に一生を得たミサトはカジの援護の下、シンジを連れてネルフ本部に突入する。カジに「もう死なないで」という言葉を残して・・・。

(対ネルフ攻撃開始)
 シンジたちがネルフ本部へ潜入を試みていた頃、すでにゼーレの指令の下にその直属部隊を中心とした多国籍軍が編成されていた。 日本政府首相の「時間切れだな」のセリフともに対ネルフ攻撃が開始される。近代兵器によってネルフ本部への突入をはかる多国籍軍。その一方でn2爆雷による攻撃も行われ、ネルフは窮地に陥る。

(アスカ復活)
 皮肉にもこのn2爆雷による衝撃は、エヴァの中で眠り続けていたアスカを覚醒させる。彼女の生への執着は戦局を一変させる。

(ゼーレの直接介入)
 形勢の逆転を見たゼーレは直ちに偽りの7シトを空中から降下させる。当初は彼らをなぎ倒すアスカもケーブル切断のため機能停止の危機に陥る。

(エヴァ初号機の発動)
 アスカを救うためシンジの乗ったエヴァ初号機が射出される。再び偽りの7シトとの激戦が始まる。初号機は一時的に彼らに対して優位に立つが、機能を停止した2号機を助けようとして彼らの罠にはまってしまう。

(巨大ATフィールドの展開)
 偽りの7シトに捕らえられた初号機は空中に十字の形に吊し上げられる。「まず強い者を縛り上げねばならぬ」というK.ローレンツ。彼らは吊し上げた糸から初号機に衝撃波を送り込みその機能を停止させるとともに、強力なATフィールドを展開し、ネルフの機能を麻痺させる。

(ゼーレによるレイの投入)
 サード・インパクトを意図するゼーレは最後のシトとしての黒い球体をターミナルドグマに侵入させる。その中には意識を失ったレイがダミープラグとして挿入されていた。このことに気づいたリツコはセントラルドグマに残っていたエヴァの機能を使ってネルフ本部周辺に独自のATフィールドを展開させようとし、最後の抵抗を試みる。

(サード・インパクトの開始)
 リツコの試みは成功するが、レイによるサード・インパクトインパクトが始まり、世界は徐々にゼーレの意図する精神汚染の波にさらされる。ネルフのATフィールドもその持続限界に達しつつあり、さまざまな妄念がネルフ・スタッフの精神を侵し始める。

(ゲンドウの決意)
 状況を見たゲンドウは一つの決意をする。「まさか、あれを」ゲンドウに問いただす冬月。「まさか初号機のエネルギーを一気に解放するつもりか?・・だがシンジは・・?」ゲンドウは沈黙を持ってそれに答え、廊下の奥に向かおうとする。その決意を悟った冬月はゲンドウに「そこまでして人間は die Erd-Seele に生かされる価値があるのだろうか?」と尋ねる。ゲンドウは冬月の方を振り返り「土から生まれた者は土へ帰る。もし他に道があるのなら Seele 自身がそれを明らかにするだろう。」と答える。(創世記:3ー19 参照)

(ゲンドウの孤独)
 ネルフ本部の隠された一室、ゲンドウはロックを解除し、一つのボタンに手をかける。彼の脳裏にシンジの姿がよぎる。「シンジ 赦してくれ」ゲンドウは最後の覚悟を以てボタンを押そうとする。

(エヴァンゲリオン:福音)
 その瞬間、彼のそばでユイの声がする。「あなた、・・変わらないのね・・」凍りつくゲンドウ。そのとき、モニターに次の文句が交互に表示される。

 

《汝の罪は赦された》
        
     《起きて歩け》 (マタイ:9ー5 etc.)


このメッセージは他のネルフのモニターにも、エヴァの中にいるシンジやアスカのモニターにも、世界中のあらゆるモニターに映し出される。

(レイの覚醒)
 その時、黒い球体の中で意識を失っていたレイが目を覚ます。「おかあさん」レイのつぶやきとともにサード・インパクトが停止する。と同時に、レイ自身がアダムと融合し、自ら白い天使となってシンジのいるエヴァ初号機へと舞い上がる。

(最後の審判)
 レイが初号機に重なり合った瞬間、初号機が覚醒し、自ら羽根を伸ばしその鋭い咆哮が世界に響きわたる。次の瞬間、それは白い輝きを放ち、一瞬にして偽りのシトを消滅させる。事態を理解できない人間たちをよそに、それに呼応して大地からは悲しげな低いうなり声が響き、太陽はその輝きを失ってしまう。暗くなった天空に一陣の風とともに何本もの巨大なオーロラが 出現し、大地の声に呼応するかのように、ややかん高い響きが天空を駆け抜ける。「Seele が、神が泣いている」この時、冬月はこう語る。

(天使たちの昇天)
 その時、シンジの前に母ユイと、姉レイが羽根を持った天使の姿で立ち現れる。微笑み合う3人。次の瞬間、ユイとレイは顔を見合わせ、再びシンジの方を向いて昇天し始める。不思議な安らぎの中で、シンジはエヴァ初号機から解放され、静かに地上へ降りていく。

(アスカとの再会)
 すでにその時、世界は再びもとの明るさを取り戻していた。大地は静けさを取り戻し、空から輝く雪が降り始めていた。「Seele の涙か」というカジ。
 一方、シンジは大地に独り横たわっていた。そこに走り駆け寄るアスカ。すでに輝く雪も消え、世界はその日常を取り戻している。彼女はシンジに向かって「行きてるの?生きてるのよね!?」と叫ぶ。その時、シンジは静かに目を開いてこうつぶやいた。
「夢じゃないんだ」
 

− END −


 



 

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