極細径内視鏡を用いた経鼻内視鏡検査

 1.開発の目的

 食道、胃、十二指腸などの上部消化管に対する代表的検査は経口内視鏡検査ですが、10mm前後の太さの内視鏡を挿入する際に舌や喉を刺激し、多くの方は咽頭反射を起こします。このため、内視鏡検査は”つらい”、”苦しい”と感じている人が多いのではないでしょうか。検査時の苦痛を軽減させることを目的に、経鼻的に挿入できるように内視鏡を細くする試みが行われてきました。経鼻的に挿入すれば、咽頭反射はほとんど起こりません。2001年から極細径内視鏡が製品化されていますが、検査中の負担が軽く、また安全性、操作性、性能に問題はなく、大変注目されています。

内視鏡の比較  上が先端径9.8mmの従来の内視鏡で、下が先端径5.9mmの極細径内視鏡です。なお、2007年9月からはオリンパス社製のGIF-XP260N(外経5.5mm)に機種変更しています。

 2.特徴と適応

 現在発売されている主な機種の太さは、5.9mm(フジノン東芝社)、5.2mmと5.5mm(ともにオリンパス社)です。従来の内視鏡より柔らかく、画像がやや荒く暗い印象がありますが、操作性、診断能力に支障はありません。検査中の負担が軽いため、前投薬もほとんど不要で、また安全です。検査中の会話が可能ですので、患者さんはリラックスでき、意思の疎通が円滑になります。患者さんの受容性は極めて良好です。
 診断目的の内視鏡検査ではほぼ全例を適応にしているところもありますが、経口的挿入が辛かった、開口が困難、鎮静剤が使用できない、上部消化管に狭窄がある、などがよい適応になります。その他、イレウス管挿入や内視鏡的胃瘻造設術(PEG)など他の治療の補助にも有効です。送気、送水、吸引の力がやや弱く、内視鏡に挿入できる鉗子類の問題もあるため、処置・治療を必要とする緊急内視鏡や治療内視鏡には不向きです。

 3.具体的な検査方法

 経鼻的挿入のため鼻腔の麻酔が必要になります。前処置(麻酔など内視鏡を挿入する前の準備)の方法は施設で若干異なりますが、咽頭の麻酔はほとんど不要です。前処置は座位または仰臥位で行い、その後左側臥位に変えて内視鏡を挿入していきます。仰臥位での検査も可能です。鼻腔を通過する時は、画面を見ながら不要なアングル操作を行わず、ゆっくりと鼻の軸に沿って進めていきます。さらにゆっくりと挿入していけばほとんど抵抗なく食道に入りますが、嚥下を促して挿入すれば、より容易になります。誤嚥や咳を誘発することはほとんどありません。その後の操作は従来の内視鏡操作とほとんど変わりませんが、胃内への送気を少なくして、まず十二指腸を観察した後に胃を観察するのがコツです。

当院での適応と前処置方法はこちらです。

 4.注意点や欠点

・両側の鼻腔がともに狭い場合には、経口的挿入に変更します。
なるべく鼻に近い部分を持ち、不要なアングル操作を避け、ゆっくり、ソフトに内視鏡を操作します。乱暴に扱うと、患者さんに無用の苦痛を与えることになり、内視鏡の耐久性も低下します。
・画面を見せながら説明するなど、検査中は患者さんとの会話を心がけるようにします。
・数%の頻度で鼻出血が起こりますが、内視鏡を抜去して10分程度鼻を押さえていれば止血できます。また、鼻腔に軽い痛みを伴うことがあり、十分な麻酔を行うことが大切です。検査後の鼻出血防止のため、検査終了直後には鼻を強くかまないようにしてください。
・送気、送水、吸引の力がやや弱いため、視野が悪くなったり、検査時間がやや長くなる傾向があります。前処置でなるべく胃内の粘液を少なくしておくことが大切です。
特別な処置や治療を行うことはできません。生検はできますが、鉗子口径が2mmと細いためやや難しい印象があります。
・操作性に慣れるため、何例か経口的挿入を経験しておくことをお勧めします。

 5.最後に

 細くなった分多少の制限がでることはしかたがなく、操作性、画質、鉗子類などにはまだ改良の余地があります。ただし、画質に関しては確実に向上しており、最新機種ではもう遜色はないようです。まだまだ一般的な検査ではありませんが、これは医師が経鼻的挿入に抵抗感を持っていることが大きな原因だと言われています。患者さんへの負担を減らす努力が医療の各分野でなされていますが、この検査はその中から生まれてきたものです。スクリーニング目的であれば極細径内視鏡による経鼻的挿入、精密検査や治療目的であれば従来の内視鏡による経口的挿入といった診療体系が確立されつつあり、今後さらに普及していくのは確実な情勢です。

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