趣味の漢詩

私の好きな漢詩のお話し

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李 白(701ー762)盛唐の詩人。 詩聖と称された杜甫と並び、詩仙と称された。
出身地は、蜀(四川省)だが、山東、隴西成紀ろうせいせいき(甘粛省天水県)の説もある。
十才で「詩経」「書経」を読み、十五才で弁論術、撃剣を学び、又任侠を重んじ貧しい人に施しをした。
二十五才の頃、蜀を出て長江流域を放浪、徂徠山そらいざんに隠棲し、日々酒を好んだ。
李白は、江上に舟を浮かべ、泥酔して波間に映った月を取ろうとして溺れ死んだとの伝説があるが、
いかにも李白らしい。ちなみに、食べ物に喉を詰めて死んだと言う杜甫とは対照的な逸話である。

通 釈
朝早く、美しい朝焼けの雲のたなびく中、白帝城を出発して、千里かなたの江陵まで、
疾風(はやて)の如く一日でたどり着いた。切り立った両岸では、猿の鳴き声が絶え間無く
聞こえてくる。幾重にもかさなる山々の間を、私の小船は滑るように過ぎ去って行った。

語 釈
早=朝早く、“つとに”と読む。 白帝城=四川省奉節県の東十三里、切り立った崖の
中腹に立っていて、瞿唐峽くとうきょうに臨んでいる。漢末に公孫述こうそんじゅつ(〜36)が築いた。
述が自らを白帝と称し、城を白帝城と呼んだ。後、蜀の劉備(161-223)が居城とし
終焉をむかえた。 彩雲=朝焼け雲、美しく色どられた雲。 千里江陵=江陵は今の湖北省江陵。
白帝城から千二百里。 一日にして還る=実際には一日で江陵まで行けるわけはないが、
疾風の如くに表現した、李白独特の手法。還は“かえる”の意ではない。 川の速さを表現した
慣用語。 猿声=猿の鳴き声。三峡あたりは猿が多い。 啼いて住まざる=絶え間なく啼くさま。
たくさんの猿が鳴いている様子がうかがえる。鳴きやまないとは違う。 万重の山=幾重にも重なった
山々。
鑑 賞
李白の詩は自由奔放、天馬空を行くが如く、変幻自在で詩仙と称されるにふさわしい。
又、リズム感、スピード感にあふれ、爽快な詩が多い。
この詩は、李白の詩の中でも最も良く知られた 代表的な詩であるが、私も大変好きで、
胸のすく思いがする。
李白の詩には「白髪三千丈」とか「銀河九天より落つるかと」など、豪快でスケールの
大きい詩が多いが、それでいて違和感が無く、「千里の江陵一日にして還る」などは
 正に李白ならではの 奇抜な表現ではなかろうか。
実際には、一日で行けるわけがないのであるが、べつにこだわることもない。
この詩は、前半二句は、スピード感にあふれ、後半二句でゆるやかで、しかも軽快な気分で
しめくくって、李白らしい力量感を感じる傑作である。
他に、「汪倫に贈る」「静夜思」「春夜洛城に笛を聞く」「峨眉山月の歌」等がよく知られている
以前、天皇陛下が中国を訪問された時、挨拶で、中国文学に親しんだことの話しの中で
李白の、この「早に白帝城を発す」のことを言っておられた。
又、「白帝」と「彩雲」、「千里」と「一日」、「軽舟」と「萬重」など、語句も多彩で豊かである。


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