【語 釈】
不識庵=上杉謙信。 機山=武田信玄 いずれも法号。
鞭声=馬に当てるむちの音。 粛々=静かなさま。
暁に見る=夜明に見る。武田軍が夜明けに見た上杉軍。「日本外史」に、“暁未だ人色を
弁ぜざるに、謙信の牙旗に前に在るを見、将士皆色を失う”とある。 大牙=大将の旗。
擁=抱く、守る。ここでは、掲げる意。
流星光底=打ち下ろす刀光一閃のもと。流星**大刀のきらめくすさまじいさま。(中国の宝剣の名)
光底**斬り付けた刀光の直下。 長蛇=大蛇、大物
【通 釈】
上杉軍は夜陰に乗じ,敵に気取られないよう,馬に当てる鞭の音も静かに犀川を渡った。
武田軍の陣営では,霧が晴れ夜が明けてみると,なんと そこで大将旗を擁した
上杉謙信の大軍が迫っているのを発見したのである。
不意を衝かれ,大混乱に陥った武田軍に,この十年 遺恨を晴らすべく,
ただ一剣を研ぎ磨いてきた謙信は,すかさず刀光一閃, 信玄に切りつけたのである。
信玄は太刀を抜く間もなく,軍配扇で ただ防ぎに防いだ。信玄は駆けつけた救援により間一髪
虎口を脱し 謙信は又しても,宿敵“長蛇”信玄を討ち漏らしたのである。
【参 考】
“流星光底逸長蛇”は正に迫力ある名句であろう。
この詩は 川中島の戦いで両雄一騎打ちの劇的な場面の絵に 頼 山陽が詩を付したものですが
吟詠ファンにとっては、剣舞には必ずと言ってよい程登場します。
|