風急に天高うして猿嘯哀し
渚清く沙白うして鳥飛び廻る
無辺の落木蕭々として下り
不尽の長江滾々として来る
万里悲秋常に客と作り
百年多病独り台に登る
艱難苦だ恨む繁霜の鬢
潦倒新たに停む濁酒の杯
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【通 釈】
小高い丘の上に登って見ると、秋風が激しく吹き荒れ、
天は抜けるように高く、あちこちから、猿の鳴き声は
もの哀しく聞こえてくる。
一方、下の方を見ると渚の水は清らかに澄み、砂は白く、
そこを鳥が飛び廻っている。
あたり一面 木の葉がさらさらと落ち、尽きることのない
長江の水が凄い勢いで、こんこんと湧き出るように
流れ下って来る。
“この雄大で力強い大自然を眺めながら、杜甫は、
もの思いに沈むのである。”
遠く故郷を離れ 悲しい秋を常に流浪の旅人となって
さまよいそして、生涯病がち(百年多病)な自分は、今
寂しく独りで高台に登っている。
これまでに重ねてきた幾多の苦労のために、髪の毛も
霜をかぶった様に真っ白になってしまったのが恨まれる。
その上、この老いた身のたった一つの楽しみであった
濁り酒も病のために、止めざるをえなくなってしまった。
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