趣味の漢詩

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七言絶句・平起(上平十一真韻)身・人

酒に対す                 白 居 易はっきょい
 
蝸牛角上かぎゅうかくじょう何事をか争う

石火光中せっかこうちゅう此の身を寄す

富にしたがい貧に随いしばらく歓楽せよ 

口を開いて笑わざるは是れ癡人ちじん

【通 釈】
世の中の人はかたつむりの角の上の小さく狭い所で、いったい何を
争うのか。火打ち石の火がぱっと火花を散らす、その一瞬の間に人は
この世に生きているようなものだ。だから、金持ちは金持ちらしく、貧乏人
は貧乏人なりに、分に応じて、ま〜しばらく楽しもう。大きな口を開いて
笑わないやつはバカ者だ!!。
【解 説】
白居易58才ころの作。この詩は連作5首中、その2番目になる。
人間の一生は短いのだから、金持ちも貧乏人も愉快に過ごそうよ。
なんでそんな小っさな事で、こんな狭い所で角を出して争うんだ!!。
耳の痛い人もいるのではないでしょうか。
【語 釈】
蝸牛角上=蝸牛はかたつむり。
かたつむりの角の上。
石火光中=火打石のカチッと
光る火の中。一瞬のうち。
随富随貧=富む者は富むなりに、
貧しい者は貧なりに。
且=まあまあ〜、ちょっとの間。 
開口笑=おもいっきり口をあけて笑う。
「人は上寿は百歳、中寿は八十、下寿は
六十。........その中に口を
開きて笑う者、一月の中、
四五日に過ぎざるのみ」(荘子)による。
癡人=痴人とも書く。ばか者、おろかな人。
【鑑 賞】
一種の人生哲学をうたったものであるが、
それにしても題が「酒に対す」とは面白い。
白楽天らしい。酒を飲みながら詠んだ気分
が私にもよくわかる。(笑)
第一句は韻は踏み落しとなっている。
起句、承句は対句になっているが、
「蝸牛角上」とか「石火光中」など空間的・
時間的に人生のちっぽけさを、うまく比喩
をつかったところが面白い。
この前半2句は、『和漢朗詠集』にものって  
いたように思う。後半では、あくせく一生を
過ごすのを嘲笑している。
白楽天が自分の生き方を詠って
いるようだ。

【白居易】(772〜846)
中唐の詩人。又「白楽天」の名でもよく知られいる。
陝西省渭南県の人。聡明で生後5、6か月で、「之」、「無」
の字を覚えていたという(?)。5、6才で作詩を学び、15、6
才で都に出て、大いに認められた。
 しかし、44才の時讒言され、司馬に左遷された。
820年都に戻ったが政治向のことで再び上疏したが、
聞き入れられず、自分から地方に出ることを願い出て、
杭州の刺史に任ぜられた。
そこでは、西湖の堤を増築して眺望をよくする一方、
州民の飲料水や灌漑用水の確保に努力した。
55才のとき、病気のため洛陽へ帰り、閑職に
ついたが842年退隠した。晩年は仏教に帰依し、
香山寺の僧如満らと交わったが、846年75才で没した。
白居易は、詩を作るたびに文盲の老婆にその詩を聞かせ、
それが理解できるまで作り直したというエピソードがあるほどで、
その詩は平易通俗、温厚和平と称された。そのため、
多くの人に愛誦された。
 白居易は儒教的文学観に立って、政治の参考にするような
諷論詩を重んじたが、世人は「長恨歌、琵琶行」など感傷的な
詩をもてはやした。
 白居易の詩文はわが国にも伝わり、平安以後の日本文学に
最も大きな影響を与えた。「白氏文集」は平安貴族の教養であり
ベストセラーだったようだ。
しかし、白居易の詩は「唐詩選」には一句も載っていない。

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