【語 釈】
蝸牛角上=蝸牛はかたつむり。
かたつむりの角の上。
石火光中=火打石のカチッと
光る火の中。一瞬のうち。
随富随貧=富む者は富むなりに、
貧しい者は貧なりに。
且=まあまあ〜、ちょっとの間。
開口笑=おもいっきり口をあけて笑う。
「人は上寿は百歳、中寿は八十、下寿は
六十。........その中に口を
開きて笑う者、一月の中、
四五日に過ぎざるのみ」(荘子)による。
癡人=痴人とも書く。ばか者、おろかな人。
【鑑 賞】
一種の人生哲学をうたったものであるが、
それにしても題が「酒に対す」とは面白い。
白楽天らしい。酒を飲みながら詠んだ気分
が私にもよくわかる。(笑)
第一句は韻は踏み落しとなっている。
起句、承句は対句になっているが、
「蝸牛角上」とか「石火光中」など空間的・
時間的に人生のちっぽけさを、うまく比喩
をつかったところが面白い。
この前半2句は、『和漢朗詠集』にものって
いたように思う。後半では、あくせく一生を
過ごすのを嘲笑している。
白楽天が自分の生き方を詠って
いるようだ。
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【白居易】(772〜846)
中唐の詩人。又「白楽天」の名でもよく知られいる。
陝西省渭南県の人。聡明で生後5、6か月で、「之」、「無」
の字を覚えていたという(?)。5、6才で作詩を学び、15、6
才で都に出て、大いに認められた。
しかし、44才の時讒言され、司馬に左遷された。
820年都に戻ったが政治向のことで再び上疏したが、
聞き入れられず、自分から地方に出ることを願い出て、
杭州の刺史に任ぜられた。
そこでは、西湖の堤を増築して眺望をよくする一方、
州民の飲料水や灌漑用水の確保に努力した。
55才のとき、病気のため洛陽へ帰り、閑職に
ついたが842年退隠した。晩年は仏教に帰依し、
香山寺の僧如満らと交わったが、846年75才で没した。
白居易は、詩を作るたびに文盲の老婆にその詩を聞かせ、
それが理解できるまで作り直したというエピソードがあるほどで、
その詩は平易通俗、温厚和平と称された。そのため、
多くの人に愛誦された。
白居易は儒教的文学観に立って、政治の参考にするような
諷論詩を重んじたが、世人は「長恨歌、琵琶行」など感傷的な
詩をもてはやした。
白居易の詩文はわが国にも伝わり、平安以後の日本文学に
最も大きな影響を与えた。「白氏文集」は平安貴族の教養であり
ベストセラーだったようだ。
しかし、白居易の詩は「唐詩選」には一句も載っていない。
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