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静夜思せいやし       李  白りはく
牀前しょうぜん月光を看る
うたごうらくは是れ地上の霜かと  
こうべを挙げては山月を望み
頭をれては故郷を思う
静夜思

五言絶句(下平七陽韻)光・霜・ク


【語 釈】
★牀前=寝台の前
★看月光=「明月光」となっている本もある
が「李太白集」に従って「看月光」とする。
★疑=「うたごうらくは」と読む。★地上霜
=月光のさしていることを地上に降った霜
かと疑った。梁の簡文帝に「夜月秋霜に似
たり」(玄圃納涼)げんぽのうりょうの句がある。
★望山月=「望明月」となっている本もある。
【通 釈】
静かな夜更け、寝床の前に月の光が
さし込んでいる。あまりにも白いので、
地上に降った霜かと疑った。光をたどって
頭を上げると、山に美しい月が出て
いる。そして、自然にうなだれて、故郷
のことが思い出されるのである。
【解 説】
月の光が一面にさしている静かな秋の
夜に、山にかかる月を眺め、故郷を思った
詩である。なおこの詩は李白三十一歳の時
の詩だと言われている。
【鑑 賞】
後半は対句となっているが、「挙頭」「低頭」
のところは、近体詩の形からはずれている。
すなわちこの詩は、あえて古風な形にする
ことによって、望郷の念をしみじみ歌っている。
この、一見短く簡素で取り立てて言うほどもな
いように見える詩がこの様に多くの共感を得て
いるのは何故であろうか。今、六十有六年を過  
ごした故郷を離れ、この地で、この詩を読むと
き、私も望郷の念にかられる。

【李 白】
こちらを参照

ここに谷崎潤一郎の『文章読本』の一部をかかげ、
鑑賞の参考にしたい。
吟剣詩舞道漢詩集・(財)日本吟剣詩舞振興会編
           石川忠久 監修 より転載
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 この詩(静夜思)にはなにか永遠な美しさがあります。
ごらんのとおり、述べてある事柄はいたって簡単であり
まして、「自分の寝台の前に月が照っている、その光が
白く冴えて霜のように見える。自分は頭を挙げて山上の
月影を望み、頭を垂れて遠い故郷のことを思う。」と、
いうだけのことにすぎませんけれども、そうしてこれは、
今から千年以上も前の「静夜の思い」でありますけれども、
今日のわれわれが読みましても、牀前の月光、霜のような
地上の白さ、山の上の高い空にかかった月、その月影の
下にうなだれて思いを故郷にはせている人のありさまが、
不思議にありありと浮かぶのであります。また、現に自分が
その青白い月光を浴びつつ郷愁にふけっているかのごと
き感慨をもよおし、李白と同じ境涯にひき入れられます。
(略)
ただいまの李白の詩についてもう一つ注意すべきことは、
この詩の中には月明に対して遠い故郷をあこがれる気持、
一種の哀愁がこもっておりますが、作者は「故郷ヲ思フ」と
いっているだけで、「寂しい」とも「恋しい」とも「うら悲
しい」とも、そういう文字を一つも使っておりません。
(略)
文字の表になんともいっていないところに沈痛な味わいが
ありまして、多少なりとも哀傷的なことばが使ってありまし
たら、必ずあさはかなものになります。
(現代かな使いに改めた)

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