環境ホルモン汚染と「疎外」の論理


第2回


  コミュニケーションの総体としての生態系
 

 前回はコミュニケーションの総体として生態系を提示しましたが、それは個々 に生きる生物間の意味過程の連鎖によって成立しているといえます。まず、生物 がホルモンや敵の姿などの状況を記号として感じとり、それによって自らの活動 を変化させ、自然において一定の働きかけをする、もしくは中止します。これに よって自然の中でその変化の痕跡が生じ、この痕跡が他の生物に新たな記号とし ての意味を持ちます。環境ホルモン汚染の場合、偽りの記号によって本来の痕 跡、つまり正常な性の分化が阻害され、意味として種そのものの危機が生じると もいえるでしょう。この過程をまとめると下の図のようになります。
 

   ホルモンなどの記号   主体の働きかけの変化   痕跡としての意味
          ‖           ⇒           ‖           ⇒        ‖
       記  号                 機   能         意味=他者への記号
ここでの主体は機能として見られますから数学の関数式のようにこの図を 「f(s)= m 」、つまり「機能(記号)=意味」と記述できると思います。ただ、 ここでは量的関係よりも質的関係を示しているので、数学の関数式とはかなりニ ュアンスが違います。

 ところで、このような連鎖によって構成される生態系には主体の働きかけを軸 に働きかけるものと働きかけられるものとのバランスの維持が必要です。これは ネコやネズミのように生物間の食う・食われるの関係、経済の需要と供給の関係 などに見ることができるでしょう。これらのバランスは直接的に食うものと食わ れるもの、もしくは需要と供給の力関係によって維持されることもありますが、 実際には記号のやり取りによることの方が多いようです。このことは、具体的に は、身体の内分泌系や自律神経系に典型的に示されていますが、最も単純な例と して暖房器具のサーモスタットを考えればいいと思います。

 実際の生態系の中ではさまざまな記号のやり取りによって多くのフィードバッ クループ(輪)が出来ています。生態系はこのループの複雑なコミュニケーショ ンの上に成り立っていると言えるでしょう。
 

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