環境ホルモン汚染と「疎外」の論理


第5回


  精神汚染
 

 本来、健全な労働には生きがいがあります。それはその労働が、単に自分のた めだけではなく、より以上に人のためになるからです。しかし、「人間を幸福に しない労働」にはこれがありません。それでも仕事はしなくてはなりませんか ら、多くの人はその仕事を正当化しようとする心理が働きます。これは一種の環 境への適応ですが、度をすぎると国家や会社のためには悪いことも平気でするよ うになります。このような人たちには「肩書き」などの社会的ステイタスが価値 基準のすべてとなります。彼らは偽りのフィードバックループにはまった、いわ ば精神汚染をおこした人々と言えるでしょう。

 この精神汚染は官庁や大企業などの大きな社会的組織の中でおこりがちです。 というのも、その中では直接に仕事の結果を見ることが少なく、書類上でのみそ の判断をすることが多いからです。しかも、実際の所、組織の権力はこの書類を 見る側の人に委ねられていますから、彼らの多くは現実に世の中を動かしている と錯覚してしまうのです。しかし、阪神大震災を見れば分かるように、隣人を助 けることが出来るのは国家でも会社でもなく隣人そのものです。このことが見え なくなってしまうと精神汚染は確実に進行します。

 具体的に精神汚染は次のように進んでいきます。まず、主体的な美的・倫理的 判断力が喪失されます。それは社会的組織の要求に有効に答えるには、それを 一々判断することは無駄だからです。次に、同じ理由で、仕事以外のことに無関 心になります。ここまで来ると、自ら偽りのフィードバックループから抜け出す のは不可能です。普通、人間は自分のいる環境がおかしいとそれを変えたり、そ れから逃れようとします。しかし、判断力の喪失と無関心に陥ると、偽りのフィ ードバックループに対して無批判なり、ループそのものの修正が出来なくなるの です。普通、人は自ら望んで精神汚染をおこしません。しかし、それが他人に対 して意図的になされる場合があります。これはオウムなどのカルト集団の洗脳や マインド・コントロールを見れば理解できると思います。
  

[←戻る] [次へ→]

[自然界のこと]