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須王は見つけた。
車をライトアップするたあめのコード。
そのコードは一ケ所でまとめられ、四角い箱につながっている。ぱっとみただけでは、その箱は普通
の集電器のようだった。
だが、たかだかライトアップのための電力を供給するために、専用の集電ボックスが必要になるだろうか。だいいちこの車以外のコードはブロックごとに備えつけてある集電ボックスにつながっている。
なら、この箱は。
思わず触ろうとして、須王はすんでのところで思いとどまった。
無線は使えない。傍受されている恐れがある。
「こちらDゾーン、区画a(スモールエイ)。不審物発見。念のため、爆発物の処理班をよこしてください」
須王はブロック警備担当の警官を使って応援を頼んだ。
やがて、処理班が駆けつけてきた。電気会社のツナギの制服を着て偽装している。全部で五人。須王の小声の報告に従ってボックスを点検し、ヒュウと口笛を吹いた。
「さすがですね。須王頚部。見事な直感です」
処理班はまず、 緊急修理中の看板を出し、周囲を仕切って無人にした。それから液体窒素をボックスに向かって吹きつける。
「振動式が組み込まれている時限爆弾です。もし頚部が勝手に開けていたら、その場で爆発していたでしょう」
箱は霜をかぶっていった。振動式の爆弾は、凍らせることによって機能を停止させられるのだ。
処理班はホッとひと息ついたが、須王はまだ安堵しなかった。
「爆弾がここだけに仕掛けられたはずがない。おそらく会場中にばらまかれているはずだ。触るだけで爆発する振動式爆弾がな」
ここで、爆弾のことが会場内に知られたらパニックになる。
テロリストの思うつぼだ。
「とにかく、ひとつずつ見つけだして凍らせる以外にはありません。とりあえずこの一体だけ持ち出して、別
の場所で解体します」
処理班の班長は須王に鍵を渡した。
「この鍵は?」
「我々の控室の鍵です。そこに防護服が置いてありますから、着替えてください。場所は区画eになります。冷却装置の予備もありますので、爆弾を発見したらともかく凍らせて、すぐに処理班を呼んでください」
須王はうなずく暇も惜しんで、 区画eに向かって走り出した。
懐から無線機を取り出す。
「こちら須王。交代時間だ。移動は全員で行うように。何かあったら各人の判断で処理しろ」
交代という言葉は非常事態の隠語だと、あらかじめ部下と取り決めておいた。訓練も何度も行った。
「了解!」
三人からの返事を確認しつつ、須王は控え室に急いだ。
防護服はつけず、冷却装置だけをひっつかんで会場に戻った。
区画aだけでも、須王は怪しい場所を二箇所も発見した。とにかく凍らせておいて、処理班を呼びつける。
須王が怪しいと睨んだ場所の一つから、爆弾が見つかった。
「南無三」
このぶんでは、爆弾は会場中にしかけられているだろう。
避難勧告を出さなくては。
だが、本部から戻ってきた答えは『否』だった。
これほどの緊急事態だというのに、上層部ではことの次第がわかっていないらしい。会場の人間に知らせず爆弾を全面
撤去せよ、などという無茶苦茶な命令が返ってきただけだ。
不幸中の幸いなのは、全警備員に爆弾の操作命令が出たことだ。もっとも、実際に爆弾が二つも発見されているのだから、それも当然のこと。
「日本警察ってのは、どうしてこう動きがトロいんだ!」
須王は怒りのあまり、あやうく無線機を地面に叩きつけるところだった。かろうじて思いとどまり、代わりに、固めた拳を壁に叩きつける。
「こちら桜井」
無線から部下の声が聞こえた。と同時に、非常ベルがDゾーン内に鳴り響いた。
「何だ! どうした!」
「俺と朝倉さんでベルを鳴らしました」
「ベルを?! なぜ……」
「小火発生ってことで。さすがに火災が起こったら、ベルを鳴らさなきゃいかんでしょう。一般
人を避難させてください。火災から、ね」
発見されたのが火災でないことは、須王にもわかった。
爆弾が見つかったのだろう。
須王は、舌打ちをして無線をオープンに切り替えた。
「Dゾーンで火災発生、消火活動間に合わず! 建物瓦解の恐れがあるため、市民と従業員を全員、避難させます!」
続けて須王は、三人の部下と一度に更新あするためのスイッチを入れた。
「全員に告ぐ! 見つけたからといってうかつに触るな! 振動式の爆弾装置が組み込まれている! 処理班を呼べ! 避難等は各人の判断で処理!」
テロリストに無線を傍受されようがどうしようが、もうこうなっては関係ない。犯人を捕まえるより事態を収拾する方が先だ。
「桜井! 返事しろ!」
「ははあ。けど、処理班を呼ぶ暇なんかなさそうっすよ。朝倉さんも向こうで作業に入りました。だいいち、俺の見つけたのはもう作動し始めてるっす。これじゃぁ、たぶん処理班も間に合わないっしょ」
「いいから呼べ!」
「蓋が開いてて、もう数字が15を切ってるっす」
「------!」
逃げろ、と須王は怒鳴った。
返ってきたのは笑い声だった。
「さっきの非常ベルのおかげで、一般市民は避難を完了してます。あとはこれを抱えて、適当に倉庫にでも放り込みます。振動式じゃない可能性だってあるんでしょ?」
「馬鹿っ! さっさと逃げろ!」
「ここで爆発させたら、被害が増えるっすよ」
何かを放る音がした。続いて、バタンッと閉じる音。
それから。
無線を通さなくても聞こえた、爆音。
「------!桜井!!」
返事はなかった。
須王は無線をオープンに切り換えて、全ての警備員に向かってわめいた。
「避難だ! とにかく全員を避難させろ! 撤収! みんな、一般市民を護衛しつつ、会場を出ろ!」
桜井の言葉からすると、爆弾には時限式のもあるようだ。
ならば。
もうこれは、一個小隊の手におえる代物ではない。
これまでの経験から考えても、爆弾の数は、処理班の人数を軽く上回っているだろう。
上からの命令などどうでもいい。須王は命令を出せる立場ではないとか、そういうこともかまゎわない。
ともかく避難が先だ。
無線の奥から聞こえてくる悲鳴を苦々しく聞き流しながら、須王は撤退命令をくり返し伝えた。
だが、須王は自分の部下の性格を失念していた。
「落とし物を預かったので、遅れます」
次に無線に入ってきたのは谷村の声だった。
「いいから戻ってこい!」
須王の命令は、谷村には届かなかったようだ。
「外に置きにいきます」
「よせ!」
「この区画の避難はすんでないです! 外に出さなければ、被害が出ます」
谷村の声はそこで途切れた。
砂利を踏んで走る音。
だんだん上がってきている荒い息。
そして。
再び爆音。
「谷村ぁぁっ!!」
ようやく無線に、各ゾーンの避難誘導の声が混じり始めた。
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