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無線が繋がり、須王の話しはそこでとぎれた。
富城の声が切れ切れに聞こえてくる。 須王は相手の台詞を聞き取ろうともせず、一方的に、ヘリをすぐ飛ばしてくれと命じた。しかも五分以内に来いと無茶なことを言った。
たちまち、仰天した富城のわめき声で無線がいっぱいになる。十分が関の山で、五分なんか冗談じゃない、と言っているようだ。
「もちろん冗談なんかじゃない。こっちは五分しかもたない。お前も”嘱託”のメンバーなら、五分といえば五分でやらなくちゃいけないことくらいわかってるだろう。お前ができないのなら、伊達に頼む」
「おいおい」
飛鷹はあきれて身を起こした。
「そりゃないだろ。富城のボーヤにもプライドはあるんだぜ。お前の一方的な判断で仕事を取りあげられちゃぁ……」
「うるさい、黙れ」
切りつけるような口調で須王は言った。緊急の場合だから、というわけでなく、こと飛鷹に対するとき、須王はいつでもこういう口調になる。
今の話で、なんとなくその理由は分かった。
須王はことさらぶっきらぼうに語ったが、それでも彼が部下を愛していたことは伝わってきた。
そして、部下たちも。
文字どおり、生命を捨てても惜しくないほど、須王という上司を信頼していたのだろう。その部下を、テロリストの雇った殺し屋に殺されたのだ。須王の受けたショックは、他人には想像できないほど大きなものだったに違いない。人の道を踏み外して------傭兵になったり、”嘱託”に参加したりすることも厭わないほどに。
そして、坊主が憎いと袈裟まで憎く思えるのは人間の常。
かつては凄腕の殺し屋だった飛鷹を吸おうが憎むのも、当然のことといえよう。
だからこそ、今の須王のふるまいは不思議だった。
米空軍のAH-64(アパッチ)部隊出身の伊達を呼びつけようというほどに焦っているのは、もちろん、負傷した飛鷹を連れ帰るためだ。殺したいほど憎んでいる相手を、どうしてそこまでして助けようとするのだろう。
仁の不審が須王にも伝わったのだろう。
須王は苦笑いした。
それから、伊達と富城の両方に無線を開いて、簡単に現状を報告し、先についた方に乗って脱出する旨を告げた。
ふざけんなよ、と両方から怒りの声が上がる。
「俺が先に着くに決まってるだろうが! 」
伊達と富城は異口同音にそうわめくと、同時に無線を切った。両方とも操縦に専念するためだろう。
「あーあ。かわいそうな富城クン」
飛鷹は肩をすくめた。
どんなあ乗り物も適当に操縦できるのが富城の特技だが、こと軍用ヘリとなると、米軍で訓練を積んだエキスパートの伊達にかなうまい。小さな身体で地団駄
をふむ富城の姿が、今から想像できようというものだ。
飛鷹が呑気に富城を案じている間に、須王は自分の防弾チョッキを分解していた。はぎれにしたそれを、自分の大腿部と膝下に固定する。
それから、残った者を飛鷹の首と頭に巻きつけようとした。
「な、何しやがるんだ!?」
「固定してるんだ」
「だーっ!そんなの見りゃわかるよ! なんおつもりでこんなもんくっつけるんだって聞いてんだ!」
「お前を背負って走るためだ」
「馬鹿言うな!」
仁はあきれて怒鳴った。
一人でも走り抜けるのがやっとという状況なのだ。 ましてやあ、大の男を背負って走るなど、自殺行為ではないか。
「お前だってそれくらいの状況分析はできるだろう!?」
「仲間は、必ず助ける」
止血した飛鷹の脚の上に、須王はさらに防弾チョッキの端切れを巻き付けた。
「何の為に俺が伊達を呼んだと思っている。伊達が迎えにくるなら、生存確率は%は上がる」
「なら一人で走れよ!生存率はさらに上がるぞ!」
「計画時に、人質が敵である可能性を考慮しなかったのは俺のミスだ。だから、必ずお前は連れ帰る」
「ふざけんな。これが俺なら、お前のことは置いてくぞ」
「そりゃそうだろう。お前は殺し屋だからな」
須王の目がキラリと光る。
「だが、俺は違う。俺のミッションでは、決して仲間を見殺しにしたりしない」
「須王!」
「今回のミッションのリーダーは俺だ。リーダーには従う。それが”嘱託”の約束ごとだろう」
これにはさすがに飛鷹もウッと詰まった。
須王はニヤリと笑った。
「心配するな。はぎれにした防弾チョッキでも、一度や二度の茶くだんなら止められるはずだ」
「俺がそんな心配してるように見えるか!」
「時間がないんだ、おとなしくしていろ。じゃないと、せっかく上げた生存率がまた下がる」
「ちくしょう!」
飛鷹はぶすっとして抵抗をやめた。
それでも減らず口はやめない。
「こんなことして、後で彪馬にガミガミ言われるぞ、おめえ」
「そうかな。俺はむしろ、褒められると思うぞ。貴重なメンバーを減らさずにすむんだからな」
「二人減るかもしれないんだぜ」
飛鷹はあきらめのため息をつき、それから、分厚い布をぐるぐる巻に去れた腕を差し出した。
「これをのけてくれたら、もう十%ほど生存率、上げてやる」
飛鷹の腕が目にも止まらぬ速さでひらめき、二人の敵が同時に倒れた。
両方とも、喉に深々とナイフが刺さっている。 全速力で走る須王に背負われて、間断なく揺さぶられている状態から投げれられたとは思えないほど正確な攻撃だった。
「たいした腕だ」
「見直したか」
「いや。ますますお前が嫌いになった」
「だろうな」
へらりと須王に同意しつつ、飛鷹は袖から敵に向けてナイフを取り出した。
昇降口から新たに現れた敵に向けてナイフを投げつけながら、 ふと思う。
さっきの話のおかげで、須王が飛鷹を嫌っている理由はわかった。そして自動的に修野をも嫌っている原因についても推測がついた。
あれは、警察に対する不振なのだ。
修野も須王と同じく、元は警察にいた。そして掲示時代に開発した情報ネットワークを今でも利用している。チンピラたちも、刑事だった頃の修野の評判に一目置いている。警察内部にも密かな協力者がいるとも聞く。
そんな修野が、辞職してもなおも警察の威光をまとっているように見えて、不愉快なのだろう。警察に嫌気がさして辞職した須王としては。
日本の警察はしょせんただの官僚だ-----と、昔話の最中に、須王は何度も言っていた。
「でもよう。お前が復讐したい第一の相手はテロリストなんだろうが。なんでフランス外人部隊なんかに入ったんだ。どいつでGSG-9にでも入った方が、テロリストと戦うチャンスはあったはずだぜ」
世界中の対テロ部隊がお手本にしているのは、その筋では有名な話だ。“嘱託”の中にも、元GSG-9だったメンバーがおり、テロ関係のミッションで活躍している。あれは田しか、館山潤一郎といったか。修野の古なじみだ。
「対テロ部隊には縄張りがある」
走りながら、須王は吐き捨てるように言った。
「フランス人部隊なら、そんなものはないと思った。だが、外人部隊にもやはり国歌意識ってやつがあった。優先されるのは国益だ。そのためには、テロも見過ごされる」
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