Angel‘s Squaer LOVE STORY 〜大地〜 [2]
目を閉じている女王の傍らで、ルヴァは何事か思案している様子だった。
しばらくしてそっと目を開けた女王は、ルヴァを見ると弱々しく微笑した。
「・・・・ごめんなさい。心配をかけましたね。」
「陛下・・・ご気分のほうはどうですか?お話がつらければ私は・・・」
ルヴァの言葉を遮るように女王は続けた。
「いいのです。ルヴァ、お話があります・・・・。
私の力はもうほとんど存在しません。サクリアが無になるのも時間の問題でしょう。
・・・・そして、・・・それから、光の守護聖と・・・地の守護聖、ルヴァ、
貴方がた二人の交代の時期も迫っています」
ルヴァは何もかもわかっていたように微笑んだ。
「女王陛下、守護聖交代の時期は、とっくに過ぎていたのではありませんか?」
「・・・ルヴァ・・ご存知だったのですか」
女王の目にみるみるうちに涙が浮かんだ。
「ええ・・・。陛下が我々の失われつつあるサクリアの肩代わりをしていたことも。
・・・・相変わらず、無茶なことをなさいますね、アンジェリーク・・・」
昔のように名前を呼ばれて、彼女の瞳から涙がこぼれ落ちると、地の守護聖は
それを優しく指で受けた。
「・・・誰も、ひとりも、欠けてほしくなかったのです。私の在位中に、
守護聖のうち誰かがいなくなってしまうなんて、いやだったの・・・」
アンジェリークはまた「ごめんなさい」と繰り返した。
宇宙を、全てを司る女王であっても、各守護聖の属性のサクリアを導く事はできても
それを生み出す事は容易ではない。
アンジェリークは地の守護聖、続けて光の守護聖のサクリアの衰えを真っ先に感じると
それとわからないように自分の限界まで力を出し切って、彼らのサクリアを補佐していたのだ。
使う必要のない、複雑なサクリアを自分の中で作り続けた結果、本来の女王としてまっとう
すべき力が急激に衰えていった・・・・。
「女王としての自覚が足りないって、またロザリアにしかられるわね・・・」
ルヴァは何と言って良いのかわからなかった。サクリアの衰えた自分のために今こうして
女王は力を失っている。その事実は、ルヴァを打ちのめしていた。
かつて彼女の愛を受けいれることよりも、女王としての彼女に仕えることを選んだ自分がいた。自分ひとりのためではなく、この宇宙全体を見守り育てる女王としての彼女を望んだ。
しかし、最後に彼女が選んだのは、やはり自分への切ないまでの想いだったのか。
自分の望んだことは、結局彼女を苦しめることになったのか・・・?
声を押し殺して泣く女王を見つめながら、ルヴァはやりきれない想いでいた。
だが、既に起こってしまったこと覆すことなど出来はしないのだ。
次の女王候補と、守護聖を選出しなければならない。それしか道はないのだ。
「女王陛下・・・」
ルヴァが問うより早く、彼女は口を開いた。
「次代の女王候補は既にこの宇宙に誕生しています。
・・・ずっと前からこれは私には予想していたことだったのです。」
女王の言葉をもとに、あらゆるデータと、水晶球にあらわれた事象によって
辺境の惑星からまず次の光の守護聖が召喚された。
ジュリアスはもう動じることもなく、淡々と引き継ぎの教育を行っている。
やがてすべての守護聖が均等に巡り合う運命なのだから、ただ静かに全て
受け入れようとしているかに見えた。
新しい地の守護聖は遥か彼方の、草原の広がる惑星に生まれていた。
彼が聖地にやってくる時には、既に女王は床から身体をあげることさえ出来ぬほど
衰弱していた。
新しい地の守護聖はまだ10代前半の少年だったが、女王は彼との短い面談で何事か
彼にささやいた。少年は最初とまどったが、自分の力を知っていたので、悲しそうにうなずいた。
おそらく守護聖の交代は滞りなく済むだろう。後は女王候補を召喚するのみである。
引継ぎと新女王の教育は、しばらくロザリアが勤めることになった。
女王補佐官の交代も近い将来に行われることになる。
「・・・・ロザリア・・ルヴァを呼んで・・・」
「ええ・・わかったわ」
アンジェリークは透き通るような微笑みを浮かべた。
「ロザリア、・・・ありがとう」
ロザリアは涙を隠して急いで部屋をでていった。
ルヴァが部屋に入ると、アンジェリークはゆっくり身体を起こした。
「陛下、起き上がってはお身体に」触りますよ、と言いかけて、
ルヴァははっと気づいた。
彼女はもういってしまおうとしている・・・。
「ルヴァ、お願いがあります。次の女王のサクリアを目覚めさせるために
私が彼女のもとへ行かなくてはなりません。力を貸してください。」
ルヴァはアンジェリークの瞳をしばらく見つめてこう言った。
「女王としての貴女が望むなら・・・。私に拒否などできませんよ、アンジェリーク」
それは女王候補の時から、助力を頼む彼女に対して度々言ってきた言葉だった。
これ以上はないくらい、優しい微笑みと共に。
今まで伏していたとは思えないくらい強い光で、輝き出した女王の身体から、白い翼が見えた。
細い腕が天を仰ぐ。
傍らの地の守護聖の力が光る粒子のように女王を取り囲んだ。
もうひとつ、別の守護聖のサクリアが二重にらせんを描き、女王の寝室に溢れた。
輝く光は強さを増していき、やがて突然破裂するような音とともに一瞬にして消えた。