天国への扉(2)


 ギィ〜
飛行機のハッチが開かれた。老人の身体に白い陽光が容赦なく降り注ぐ。彼はかげろうの沸き立つ滑走路へひとり降りていった。周りに人影はなく、ただ遠くから波の音が聞こえてくるようだった。しばらくすると向こうから自分と同じ老人が車椅子に乗せられて飛行機の方へと近づいてきた。
「あんたが今度の新入りさんか。ここまで来ればもう安心じゃ。」
彼は何か言葉を返そうと思ったが、言葉が見つからなかった。その老人の車椅子を押している看護婦らしい女の人も微笑みつつも何も話そうとはしない。
 少し間を置いて車椅子は再び飛行機へと進み始めた。あいかわらずその老人は陽気であった。
「達者でのぅ。」
それが彼の別れの言葉であった。
 その時、遠くから老人を呼ぶ声がした。
「村上サン。」
女の人の声だった。
「オマチシテマシタ。モウ大丈夫デスカラ。」彼女はちょっとたどたどしい日本語で老人に声をかけた。
「どうもすいません。ところで今の方は?」「玄サンデスネ。モウアナタガ最後デス。村上サン、コチラデス。」
彼女はやさしく老人に話しかけた。
「お世話になります」老人は静かに言葉を返した。
 彼女はどこかで見覚えのある顔だった。しかし、敢えて彼は昔のことを思い出そうとはしなかった。
「ついに戻ってしまった。」老人はひとりそうつぶやいた。
 
 

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