悩みと共に(抑うつ 神経症 気分変調 うつ病 摂食障害)

すんだひとみ
澄んだ眸
clear aspect

OJT

 新たな職場では、私はそのシステムについて何も知りませんでした。

 一通りドキュメントを読むだけが当面の仕事です。一人で電話番をしているときもありました。ただ座っているだけで、何かができるわけでもありません。

 そうなると苦しくなってきます。何か出来ないと価値が無いと思えばそうかもしれません。ですが、私はそうは思いませんでした。私は一人でわけのわからないシステムのドキュメントをパニックも起こさず読むことができる。イライラせずにストレスに耐えることができる。そう思うことでイライラを静めることができました。

 職場復帰時に心がけたのは、「一日に一つだけ何かを覚える」ことです。一つ以上は絶対覚えないようにしました。

 いいかげんな100ステップのプログラムはまともな1ステップのプログラムに負けます。

 心の病気になっている私は、以前に比べてそんなに仕事はできないのですから、確実な1ステップを徐々に積み上げるしか方法はありません。そうはいっても一日にいくつも覚えてしまうこともありました。そのときは、仕方がないなあとつぶやきながら、ちょっと覚えれたことを素直に喜びました。

 私は新たに導入されるUNIX機の環境設定のためにここに配属されたようでしたが、仲間がやっている汎用機の環境変更処理を手作業でなくJCLを組んでできることがひらめいてそれを仲間に提案したのが最初の仕事だったような気がします。

 商用のマシンの環境変更はユーザーさんのデータが載っているので、失敗が許されません。失敗したらごめんなさいと謝ることしかしてはいけないと私は信じていたのに、そこにいる仲間は失敗しても笑っているのです。それに、自分に出来そうに無いことははっきり「できない」と言っているし、「めんどくさい」とか「しんどい」とか「まぎらわしい」なんて言葉がユーザーさんの目の前で飛び出ていくのです。それを見ているユーザーさんもにこにこ笑っていたりして、そういう仕事のあり方を私は徐々に学んでいきました。

夜間対応

 そのうち、私は新たに導入されるUNIX機の環境設定のために配属されたことがわかりました。

 事前作業は昼間にできるのですが、環境切替はコンピュータシステムの都合上夜中になります。職場復帰後半年ぐらいたっていたので、私は思い切って夜間の仕事にトライすることにしました。自分がやったことの結果を自分で確認したかったからです。

 深夜作業は集中力も無くなりミスも多発するので、一人のオペレーションをもう一人が確認しながら実施するロッテ戦法を取ります。そういった面で安心できるところがありました。
その一年後には1500行のコマンドを一晩で投入し、一つも誤りが無いところまでやれるようになりました。

 そのような実績をかわれたのか、人材が無いのかは私にはわかりませんが、私はトラブル対応を担当するようになりました。システムは365日22時間動いているので朝2時とか、4時にトラブルが起こることがあります。当初、3人で交代しながらトラブル対応の当番をしていたのですが、システムの開発が収束に向かうに従い、二人になり、最後にはUNIX機に関するトラブルは全て私のところに最初の一報が入ることになりました。

 いかに開発環境で試験済のシステムとはいえ、予想外のトラブルは必ず発生します。開発者の予想できなかったシステムの不具合の原因を短時間で解析し、影響を調査し、対策を考え運用可能な状態まで持っていかないといけません。そこに乗っているデータはお客さんのデータなので、操作に誤りは許されません。時には原因が特定できないときもありますが、それでも運用を続けるための最大限の努力が強いられます。

 そんなことができるようになったのは、「無力で不完全な人間でも、ある程度の仕事は成し遂げられる」「人間はできる範囲のことだけ精一杯やればいいの」という実にあいまいな信念があるからだと思います。

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